演技方法と物語性 目次
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■アメリカ軍産複合体とクーデタ
  US軍産複合体の焦燥
  海洋権力と通信網
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アメリカ軍産複合体の焦燥

  1970年代前半、アメリカにとって太平洋とインド洋との連結点に位置するインドシナ半島のヴェトナムを失うということは、世界経済の覇権を担う太平洋艦隊の展開力の保持・構築の上で決定的なダメイジとなる、と考えられていた。。
  おりしも、キッシンジャーの工作で、共産党が支配する中国との「和解」「妥協」は成立しつつあったから、アメリカの軍事力をインドシナに集中しておくことが可能になった。
  とはいえ、南ヴェトナムの傀儡政権を失っても。フィリピンやインドネシア、沖縄などを確保しているのだから、航空展開力がカギとなっている海洋権力の配置展開にとって、東南アジア地域での海軍力の展開拠点の再構築は、さほど困難ではない。してみれば、あまりに大きな犠牲・代償を払ってヴェトナムへの支配を維持するメリットはさほど大きくない。

  実務的にはそうだが、しかし、「ドミノ理論」に凝り固まっていたペンタゴンにしてみれば、むしろ観念上、イデオロギー上の敗北感・危機感の方が昂じていた。
  ところが、艦隊の寄港地や出撃拠点の喪失よりも、将来的に見た場合――短期視点で――経済的な機会ロスが見込まれることの方がダメイジが大きかったというべきかもしれない。コンピュータなどの電子機器システムと国際電話回線ネットワークとの連結が、軍産複合体にとって新たな利権の拡大にとって不可欠になっていたのだ。
  この「経済的な得失」の観点が、アメリカ海軍力の展開と密接にかかわっているのだ。


  さて、チリの話に戻ろう。
  チリのアジェンデ政権による変革は、危機感に迫られてアメリカ政府が非常に攻撃的になっていた時期に試みられた。タイミングと運が最悪だった。
  チリの海岸線は入り組んでいて恐ろしく長い。アメリカ軍からすれば、ソ連や左翼勢力のチリ・南米大陸への海からの侵入を防ぐために防御すべき戦線がそれだけ複雑で大がかりになるということになるのだ。
言い換えれば、それだけ、チリ共和国では、細長い陸地の軍事的防御よりも、長くて複雑な海岸線を防衛する海軍や沿岸警備活動の位置づけが圧倒的に大きいということになる――もちろん可能性の問題にすぎないが。
  だから、アメリカ海軍は、チリ海軍を南アメリカ大陸における対「冷戦」戦線の担い手として以前から育成指導、管理してきた。大海洋に面した国土を有する諸国家を軍事同盟に引き入れて、海軍展開力の拠点とする戦略は、じつはアメリカ国家の世界的規模での産業戦略と直接に絡みついていたのだ。

  その産業戦略とは、近い将来に電子化するはずの通信産業の世界的展開を、国家――直接には海軍――が支援・誘導する政策だった。その直接の担い手となる企業は、国際電信電話会社 ITTだった。当時、ITTは、合衆国のヘゲモニー担う軍産複合体の中核的企業で、ペンタゴンと深く広く癒着していた。
  ペンタゴン子飼いの国策会社でもあるITTが保有管理する海底ケイブル――光ファイバー化が始まろうとしていたのだ――のネットワークを世界の海洋底に敷設する、ということである。アメリカ軍と結びついた巨大企業が世界的規模での電子通信ネットワークを直接掌握するということは、アメリカの世界は県にとって決定的に重要だった。

  今では、幹線の直径が1メートル以上もある光ファイバー・ケイブルの集束管のネットワークが。全世界の海洋の底に敷設されていて、WWW(世界大の蜘蛛の網: world wide web-system )の情報通信の不可欠のハードウェアになっている。
  インターネット・システムはもともとは、世界的な測地機能GPSと結びつけながら、アメリカ軍産複合体が開発した軍事技術だった。

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