すぐれた映画は、できごとの背景文脈をも描き出す。史実の事件を描いた物語やある時代の社会状況を描こうとしたフィクションの傑作は、できごとの背景にある世界の状況や国際関係、軍事的環境をじつにみごとに描き出してくれる。
今回は、映画作品が描いた事件を追いながら、その映像物語の背景としての諸国家の軍事的構造と結びついた植民地支配などの権力構造、その経済や文化、あるいは国家や民衆がおかれた国際的な軍事的環境を読み取り、分析する試みをおこなう。
題して「映像の地政学」。
映画を手がかりに、どこまで歴史的な軍事状況や権力構造を読み解くことができるか、試みてみようと思う。
固有の意味での――つまり狭義の――歴史学とは、人類の文物とりわけ遺構あるいは記録史料すなわち文物に描かれた図像や文字、記号、紋様などを手がかりに、過去の人類の社会的営みとその変動推移の過程を推定し、変動の因果関係を読み解く学術(科学)であるという。
だとすれば、現代文明の所産である映画もまた有力な歴史学的史料の1つの形態ということができるから、映像物語を手がかりに、描かれている時代や社会の状況を読み取ることができるだろう。かつまた、映画制作陣の意図や問題意識、歴史観を読み解くこともできるだろう。
このウェブサイトでは、映画に描かれた事件や物語を社会史的に読み解くことを、本来の目的としている。だから、いまさらここで、そんなわかり切ったことを述べる必要はないのかもしれない。だが、今回は、特殊に地政学的視点から、映像に描かれた事件の背景や断片的事象から、諸国家の権力構造や軍事的環境を析出しようと試みる。
これは《映像社会学 Filmosoziologie 》という独特の社会科学分野をつくり出そうとする試みである。
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