演技方法と物語性 目次
映画は国際政治をどこまで描けるか
映像社会学の試み
地政学とは何か
映像物語の地政学的考察
■アラビアのロレンス
  3C政策と3B政策
  アラブの盟主・・・
  約束手形の乱発
■アメリカ軍産複合体とクーデタ
  US軍産複合体の焦燥
  海洋権力と通信網
  ヘゲモニーの重い代償
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海洋権力と通信ネットワーク

  海底通信ケイブルのネットワーク幹線を敷設するためには、海洋底の地形やその変動――プレイトテクトニクスのメカニズムや海底火山活動――などに加えて、深層海流や海洋気象、海洋底の生態系、海洋全体の構造と生態系などの科学的な研究や調査が必要である。もちろん、ケイブルのメインテナンスや取り換えのための船舶や装置、深海操作機械、潜水艇、サルヴェイジのメカニズムの技術開発・建造なども不可欠だ。
  プレイトテクトニクス理論の研究が最も進んでいたのは、アメリカ海軍が主導する軍産複合体――大学やアカデミズムとも連携する――だった。

  こうして、多様な学術部門を横断する科学研究と工業装置研究開発などを集積する、巨大な産業プロジェクト(戦略)が背後に控えているのだ。現代の先端科学は軍事組織との連結を不可欠の条件としているのだ。
  こうした知的活動の大半を、じつはペンタゴンの海軍部門は掌握しながら推進している。世界中の有力大学や研究所とも連携しながら。
  海洋・海底地形の測量調査や海洋気象――天文・水文学――研究の先端で競い合うパイオニアが、各国の海軍であることを想起してほしい。海洋生物学でも、専門家を最も多く抱えているのは、海軍あるいは海軍と連携した研究施設なのである。何しろ、艦隊の作戦航海や潜水艦の潜航作戦で収集する膨大な情報・知見が優先的に提供されるのだから。

  このように見てくると、チリのクーデタにおいて海軍やCIAの情報活動要員の拠点が、チリにあるITTの子会社や事務所だったこと、諜報要員がITTの社員身分証を携えてチリ国内で動き回っていたことの背景が見えてくる。
  ITT=ペンタゴンは自らの利益を擁護するためにも、チリの政治環境を統制しようと狙ったのである。その利害は、ペンタゴンと海軍、そしてアメリカ情報産業・通信産業の全体と結びついていたのである。アジェンデ政権転覆の作戦は、こうした背景をもっていた。
  だが、平和的な方途でも、やりようはあったはずだ。だが、権力装置は往々にして傲岸不遜であるとともに、その保有する権益の喪失を恐れる危機意識が過剰にはたらき、反面、想像力が乏しいものなのだ。


■パクス・ブリタニカと海底通信回線網■
  自らの世界経済ヘゲモニーを補強し、まったく新たな基盤の上に据え直すために、海底ケイブルを利用した世界的規模での通信回線ネットワークの敷設というヘゲモニー・プロジェクトを最初に展開したのはブリテンだった。
  19世紀の末から20世紀前半にかけてのことだった。
  そもそも18世紀のブリテンのヘゲモニーの掌握とその後のヘゲモニー装置――各地の港湾・軍港・海軍基地や運河、海底ケイブルと通信網などのインフラストラクチャー ――の地球的規模での組織化によって、世界経済の権力構造はそれまでと比べてすっかり構造変動した。
  権力構造の中核には、周到かつ系統的に組織された国民国家があるようになった。
  それは、各州・各都市が連邦内で分立・競合していたネーデルラントの世界ヘゲモニーとも、ましてそれ以前の地中海世界経済での都市国家ヴェネツィアの最優位とは、決定的に異なる次元の支配構造が生み出されたのだ。

■パクス・アングロ=アメリカーナ■
  そして、戦間期から1930年代にブリテンからヘゲモニーを受け継いだ合衆国は、ブリテンのヘゲモニー・プロジェクトをはるかに凌駕する規模と質において、世界的規模での情報通信ネットワークを組織した。
  私が、パクス・ブリタニカとパクス・アメリカーナを1つの持続的な世界権力構造――パクス・アングロ=アメリカーナ――の2つの局面として連続的に把握するのは、世界経済を全地球的規模に拡大しながら、その質的構造を決定的に転換することで登場した歴史を見るからであって、さらに2つの国民資本の権力の融合、金融的癒合が独特の世界支配=資本蓄積の構造をもたらしているからである。

  ヘゲモニー装置の体系のなかには、権威や権力の伝達や経済的取引のための言語プロトコルが英語で組織されていることも含められている。同一の言語が持続的に2つの国家のヘゲモニーを表現する言語となり、それらを中核とする政治や経済をめぐる情報や文化の伝達手段・コミュニケイション手段となっていることは、決定的に重要である。
  英語は、世界の経済的・政治的・軍事的・イデオロギー的な文化基盤として日常普段に作用しているのであるから。

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