旧ソ連社会の構造を探る 目次
世界市場的文脈におけるソ連国家
国家の存立根拠について
「国家」とは何か
世界経済の文脈での国家の成立根拠
国家資本主義的独占の失敗
中央計画経済の現実
計画経済の袋小路
ソ連・東欧レジームの崩壊へ
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ソ連・東欧レジームの崩壊へ

  1970年代半ばから、ソ連・東欧レジームの経済運営における機能麻痺が表面化した。深刻な危機が進行していった。こうして80年代には、じつはレジームの部分的解体が始まっていた。
  そのとき、西側諸国家の同盟は、ソ連東欧レジームの解体をより温和に促進しながら、社会主義諸国家を平和的・効果的に世界市場に統合していく戦略をとるべきだった。ドイツとフランスは、この路線に舵を切ろうとしたようだ。
  ところが、皮肉にも、アメリカには硬直的な「反左翼・反社会主義」イデオロギーに凝り固まったレイガン政権が出現してしまった。ブリテンにはサッチャー政権が登場。力で社会主義レジームを押し潰す、あるいは威圧して封じ込める、孤立させる、という見当違いの政策を展開した。

  おそらく、それは、世界経済におけるアメリカの相対的・部分的なヘゲモニー危機が生じたためで、合衆国政府はそれに過剰反応して軍産複合体への利権集中を追求することになった。
  だが、アメリカとブリテン――アングロ・アメリカン保守同盟――は、先端軍事技術の開発を極限にまで推し進めながら、その民間需要への転換・応用によって、世界市場での資本蓄積競争の基軸を組み換えていった。そして、製造業での拡大再生産よりも金融市場の膨張と金融競争での蓄積加速を選択した。それは、現在の世界経済の危機を準備する過程だった。

  それにしても、ソ連東欧レジームは深刻な財政危機のなかで、アメリカ主導の西側同盟によってふたたび過剰な軍拡競争を仕かけられ、悲惨な経済破綻と金融・財政破綻に陥り、のた打ち回りながら崩壊する道にはまりこんだ。当面は、世界市場への融合もままならなかった。
  ことにソ連は、兵営型国家指導経済からの中間段階=過渡期をはさむことなく、闇雲に「市場経済」への転換が進められた。これによって、実際には「闇市場経済」「暴力経済」「マフィアの財閥化」が出現して「失われた10年」が生じた。このような無軌道な――イェリツィン政権のもとでの――自由化の反動としてプーティン政権が誕生する。

  話をアメリカに戻す。
  レイガン政権以降のアメリカは、国内での産業の空洞化を意図的=選択的におこないながら、世界経済で名目上の金融資産での圧倒的優位を築き上げ、その資金力――ドルという世界的な貨幣資本すなわち「最強の基軸通貨」の供給元にしてはじめてできる芸当――を土台にして、アメリカを中心に世界貿易ネットワークを再組織化し、この中心を心臓部とするバブリーな資金循環を誘導していった。
  したがって、国際収支と国家財政の大赤字は、アメリカにとっては危機ではなく、意図的に選択された帰結だった。自らはドル資金を世界に放出しながら、それと引き換えに世界の主要な製造品・資源を自国に引き寄せ流入させる、というわけだ。
  最有力の西側諸国家すべてが軍事的・政治的(かつ金融財政的)にアメリカの指導下に同盟し統合されていればこその戦略だった。いく分でもアメリカと競争しうる力量を持つ諸国家のすべてが、アメリカ支配の軍事同盟と金融同盟に組織化されていればこその戦略だった。


  日本を見よ。加工貿易型国家としての国際的地位の上昇は、あげてアメリカへの従属と同盟を条件とするものだったではないか。恥も外聞もなく政治・軍事の自立性を投げ捨て、アメリカ中心に編成された世界貿易システムにのめり込み、過剰適応する、これが私たち日本の選択だった。

  これまでに見たことからすれば、冷戦構造とは、まったくのイデオロギー上の「共同主観」にすぎなかった。
  ソ連東欧レジームは「辺境の開発途上国」でしかなく、西側主要諸国と世界市場で競争しうる力能をもちえなかったため、自立的な国民国家としての存立条件すら欠いていたというべきだった。およそパクスアメリカーナに現実に対抗できるポテンシャルにはなかった。ただ、核兵器体系を除いて。
  経済的にはそういう実態だったが、イデオロギー的敵対のなかでアメリカや西側諸国家に対抗して見せかけ過剰武装をして「集団的社会主義レジーム」として飾り立てていたにすぎない。
  その核兵器の管理システムはたしかに恐ろしい破壊力と脅威を備えていたが、ソ連東欧にとって、体力の消耗を促進する重荷でしかなかった。そのため、ソヴィエト・レジームが崩壊するや、旧ソ連核兵器の分散と世界的拡散の危機が生じた。いくつかの核兵器は闇市場に消えたかもしれない。

  レイガン政権とサッチャー政権のサプライサイド経済政策ならびにマネタリズムは、弱小産業部門から資源を強引に引きはがして金融セクターへ移転するもので、金融資本(金融資産)の超過剰状態をもたらし、2000年代の世界金融の持続する危機――ゼロ金利・超低金利状態の持続――を帰結することになった。
  アメリカが主導して西側諸国家が進めてきた、IT先端産業主導型の経済構造をつくり出す方向での資本蓄積様式は、ソ連・東欧諸国経済を世界市場競争から追い落として脱落させ、その金融財政危機と金融的従属をもたらした。
  その意味では西側レジームは「冷戦に勝利」した。資本主義的世界経済において辺境で社会主義イデオロギーをまとったレジームには勝った。中核諸国家が周縁の国家群に勝っただけのことで、それが資本主義の破壊的性質や醜悪な構造を克服したというわけではない。

  「社会主義」という偽装の仮面が剥がれ落ちてみると、ソ連・東欧のどこにも《資本主義と異なる歴史的な質をもつ社会主義》なるものは存在したことがなかったという事実が明らかになった。醜悪な全体主義的レジームが「社会主義イデオロギー」を鼓舞していただけだったということが。

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