《のだめカンタービレ》
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◆音楽の「時代精神」を読む◆

A: その内容にかかわって、作曲家が生きた時代の社会意識や権力関係、音楽についての考え方とか雰囲気、楽器製造の技術や演奏技法なども理解しないと、そもそも曲に込められた想い=構想が見えてきませんよね。

B: とくに、たとえばアマデウス・モーツァルトが生きていた時代の(宮廷)音楽と、今私たちがクラシック音楽として聴いている音楽とは、相当に異なっているでしょう。
  モーツァルトの時代の宮廷や貴族がいわばサーヴァントとしての音楽家に求めたものは、「その場限りの音楽( Gelegenheit-Musik )」だった。特定の晩餐会とか宮廷儀式だけのために作曲させ、演奏させたもので、楽譜などの記録にきっちり保存して、あとで再演・再現することなどは考えていなかった。要するに、「その場限りでの使い捨て」なんだ。
  したがって、ほかの作曲家らの無断「盗用」や「借用」、自分の過去の作品の使い回しなど、何でもありで、咎められなかった。その場で、雇い主の王や君侯、貴族、司教様たちが満足し、楽しめればよかった。要するにBGMだった。
  そして、王や貴族たちは、優秀な音楽家たちを、自己の権威や権力を表現し誇示する手段として考えていた。ひどい場合には、使用人たちの1人でしかないと見下していた。
  もちろん、音楽を深く理解し、音楽家を尊敬していた君侯たちもいただろうが。

A: そして、楽器にしたところで、モーツァルトの時代には、ピアノは発明されたばかりの「「フォルテピアノ」というやつで、音階(鍵盤)も30ちょとしかなかった。現在のピアノの3分の1強、4割くらいの音域しか使えなかった。
  それに、音階自体の刻み方(音程の周波数)もバロックからヴィーン古典派の時代にかけて、かなり変動していた。
  あのバッハの「平均律(適度に整調された)クラヴィーア曲集」というやつも、バッハがその当時の最先端・最新の音階理論や調性理論(方法)に飛びついて、基本となる調と旋律のモデルを編成・集成したものだよね。
  という意味では、そもそも音階そのものや調性そのものについての考え方すら、古典時代と今では相当に違うらしい。


C: そうなると、現在の私たち、いや音楽の専門家たちは、曲が作られ演奏された時代の姿や内容を理解できるのでしょうかね。無理ではないですか。楽器も技法も、社会背景も違いすぎる。

B: そうだと思うね。
  しかしね、近年、「古楽器」の復元や数世紀前の技法を忠実に再現しようとする動きが活発化して、そのための技術や方法論がどんどん提起されてきているそうだよ。
  今では、フォルテピアノの演奏会というのもあるしね。
  ピアニストの内田光子さんなんかは、ピアノの古楽器、フォルテピアノ、さらにはバロック時代末期のクラヴィーアの演奏技法を研究・再現して――当時の楽器の性能や音楽思想から見てたぶんこうではなかったかという演奏を――演奏会で発表しているというし。
  そうやって、「原点」に一度立ち戻って音楽の構想や内容を再構築しようとするわけだね。

C: すると、千秋真一が「楽譜」を読み込めば、その音楽の情景や作曲家の意図が見えてくると言ったけれど、作曲家の意図なや情景の理解の仕方が今後、変わっていくかもしれませんね。

A: とくに、日本の明治以降の「官学アカデミズム」の1部門としてのクラシック音楽は、18世紀末から19世紀後半までのドイツ・中央ヨーロッパの傾向や時代の影響を強く受けているからね。演奏家や指揮者が堅苦しい正装(ドレスやタクシード着用)をして、いかめしい雰囲気のなかで、しかも体系性や構築性を重視して、娯楽性をあまり重視しなかった時代の。
  まさに宮廷の儀式のような演奏会の雰囲気だ。
  だから、堅苦しい――ドイツ風の――方法論というか音楽思想によって立っていた。今なら別の理解の方法になるかもしれないね。

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