《のだめカンタービレ》
     が描くもの 目次
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◆「クラシック音楽」の成立◆

B: 19世紀のドイツでは、楽譜がきっちりと保存・ストックされるようになったことから、楽譜資料が大量に蓄積されるようになったんですよ。そうなると、資料を編纂し、分析・整理して、体系化=集約するようになる。音楽の評論や批評を専門にする文筆家や研究者が現れてくる。
  こうして、19世紀の終わりごろには「クラシック音楽」なるものが成立する。
  理論化され、厳密で堅苦しい方法論が確立していくのです。それは、一方で作曲家や演奏家の作法とか技術の規格化をもたらし、他方では聴衆――ユルゲン・ハーバーマスが『公共性の構造転換』で描いたような「教養ある公衆」――の側のマナーとか知識・教養が要求されるようになる。
  そうなると、専門の音楽雑誌が刊行され読まれるようになる。シューマンのように音楽評論をして地位を築く者も現れてくる・・・。
  音楽家も聴き手もタクシードとかの正装で演奏会場に出向くことになりました。

  体系化や統一化というものがドイツで切迫感をもって進められたのには、そこではたくさんの領邦国家が分立していてなかなか(ブリテンやフランスに対抗しうるほどの)国民国家の形成が進まなかったという事情があるようです。19世紀の後半になって、ようやくプロイセン中心の国家統合が進みます。
  政治的・軍事的構造での分裂、というか統合の遅滞ということから、学問や文化、音楽では体系化や統合化(重厚性の追求)が強く課題として意識されることになったのでしょう。

C: 体系性や構築性を求める方法論がドイツで打ち立てられたのは、やはりベートーヴェンの業績がおよぼした影響が大きいのでしょうね。


B: ブラームスが交響曲第1番を、20年もの期間、手直しに次ぐ手直し、検討に検討を重ねて、ようやく発表にこぎつけたのも、つまり、それだけ慎重になったのも、そういうドイツでの体系化や方法論の確立という事情があっただろうね。
  「のだめ」物語で、この曲を千秋が演奏する機会=場面が2度あります。1度目は、R☆Sオケでのデビュウ公演、2度目が(指揮者コン優勝の報償としての)ヨーロッパでのデビュウ公演。
  その場面では、千秋のモノローグとして、ブラームスがいかに研鑽に研鑽を重ねたか、20年間の間に1秒の無駄もなかったという事情を説明しています。たしかに、「ブラ1」は、「ベートーヴェンの交響曲第10番」と呼ばれることもあるといいます。
  それは、1つには、それだけベートーヴェンが提起した曲想の構築性や明晰性にかなりの影響を受けて、意識していたこと。ブラームスがもともとはピアニストで、オーケストレイション(総譜書法)にあまり自信がなかったこともあったでしょう。
  でも、2つ目として、やはり、ドイツ音楽界で体系化=構築化が進んでいたという事情に圧迫感を感じていたということが大きいのではないでしょうか。

A: たしかに、ある種の壁にぶつかっていたブラームスは、東欧・南欧の土着音楽や民衆伝承音楽から素材を発掘して、舞曲集などを編纂している。ドゥヴォルジャークを音楽界に登壇させたのも、ブラームスですしね。
  その壁というのは、やはり「ロマン主義」「理想主義(イデアリズム)」の限界ですかね。

C: 19世紀のドイツで音楽でのロマン主義が台頭するのも、現状への不満や鬱屈があったからですかね。「今、ここにないものを希求する」という。まあ、「ないものねだり」ということかもしれませんが。
  それはまた、音楽家(芸術家)が生きている間には世間=公衆から高い評価を受けることがあまりない、という事情の裏返しかもしれませんね。
  でも、そうではあっても、楽曲が楽譜として系統的に収録・保存されるようになったから、演奏家=指揮者が、過去の優れた作品をストックのなから選んで、独自の編曲や解釈、あるいはたとえばピアノ曲やオルガン曲のオーケストレイションによって、公衆の前でパフォーマンスしてみせる、という業界慣行が生まれたわけでしょう。

B: あるいは、シューベルトやシューマン、ショパンやリストのように、ピアノ曲を「超絶技巧」でもって作曲し、即興演奏してみせる曲芸を競うようになる…。そして、緻密な美しい技巧に富んだ交響曲やコンチェルトをつくったり。
  はたまた、オルガン曲やヴァイオリン・コンチェルトをピアノ曲に編曲して、まったく新しい構想や曲想を提示するとか…。

C: その意味では、のだめが「自由に楽しくピアノを演奏して何が悪いのか」と問いかけるのも、音楽史的にはそれなりに深い意味があるのですね。
  19世紀に確立して、私たちに「クラシック音楽」というものへの既成観念というか先入観を植え付けてしまった時代よりも前の時代の、未成熟で混とんとしていた時代の音楽への憧憬というべきか。

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