《のだめカンタービレ》
     が描くもの 目次
鼎談者の面々
全体から何を感じたか
千秋とのだめの人物像
音楽における「自由と必然性」
表現技術と「表現したい内容」
音楽の「時代精神」を読む
「音楽」の歴史的変化
「クラシック音楽」の成立
ソロとオーケストラ
ソロとアンサンブル
若者たちの挑戦
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■巨匠たちと若者たち■

A:R☆Sオケも含めて、若者ないし若手たちと実績ある有力な指導者との関係についても、いたるところで描かれていますね。この関係についてはどうですか。

B:物語として最初に登場するのは、フランツ・フォン・シュトレーゼマンです。  音大の理事長、桃平美奈子からの依頼で指導にやってくる。直接には、才能もあり努力も積んでいるが、日本から出られない千秋真一を指導するために。でも、間接的には、エリートになり損ねている個性あふれる若者たちに刺激を与えるために。
  だけど、この爺さん、一筋縄ではいかない「つわもの」。完全に自分のペイスとわがままなスタイルで千秋や若者たちを独特の混乱に巻き込んでいく。とはいえ、彼なりの目標設定があって、セクハラしながらも彼らの成長のために刺激や機会を与えていく。
  たとえば、原作では長野でのニナ・ルッツ音楽祭で、シュトレーゼマンは大酒を食らって体調を崩し、学生オケの指導=指揮を代役=千秋にやってもらうことになる。指揮のためのスコアなどの資料を自室にわざとらしく置いておいて、千秋に独習させる。千秋の性格や資質を知り抜いたうえで。
  そうなると、あの「大酒→二日酔い」は計算したものなのだろうか。その場の成り行きで、結果的にそうなったのか、という疑問がわいてきます。

C:私は、あの爺さん、自分の性格を知っていて、半分は計算しながら、しかし目先の欲望に負けることで、偶然、結果的に目標を達成する方向に成り行きを持っていっているような気がする。
  まったく深く考え抜いているような、ちゃらんぽらんなような。両方ありだと思いますね。それがまあ、巨匠の巨匠たるゆえんだと。遊び半分でも、事態を動かしてしまう。
  そういえば、千秋の回想のなかで、ヴィエラさんも、オケの指揮の直前まで子どもみたいにゲイムに熱中してバカをやりながら、オケの指揮になるとまったく別の人格に変わってしまう。自分のなかに、いつでも突出できる音楽家としての自分を持っている。

A:過去に音大の理事長をめぐってシュトレーゼマンと三角関係、さや当てがあったというカイ・ドゥーンも、R☆Sオケの指導に自ら乗り出してきますよね。「世界のコンマス」ともいうべき高みにいるヴァイオリニストなのに、相手が駆け出しの若者でも、気に入ったら指導を兼ねていっしょに練習する。あの腰の軽さは素晴らしいね。 C:本当に。
  巨匠なのに、実績や地位を鼻にかけることもないし、ふんぞり返ったりもしない。自分の感覚や鑑識眼に素直にしたがって生きているという感じがする。
  すぐれた音楽家というのは、そうなのかもしれないね。「いいものはいい」と、自分の美意識や想像力を駆使しているから、いつまでもデリケイトで感性豊かでいられる。
  自分の地位や業績にふんぞり返っているようでは、感性や想像力は鈍って、芸術家のトップとしての地位からは簡単に転げ落ちてしまう。
  巨匠たちは、やはり自分のなかに蓄えたものを出し惜しみせずに発揮し表現するから、若者たちも強烈に惹かれていく。

B:その世界の有力者や巨匠の特権というのは、やはり若い才能を発見・発掘して機会と挑戦の場を与えるということでしょうかね。
  ニナ・ルッツでは、あの気まぐれで練習嫌いの峰君が、音楽祭に参加した同世代の若者たちに刺激を受けて、真夜中まで必死にに練習する。やはり、「こいつらすごい!」と感じるフィールドに出会うことで、若者は自分に弱点や欠けているものを痛烈に知り、さらに自分の将来の目標の照準設定をし直したりしますよね。
  やはり、同世代の高いレヴェルの人たちが結集する場に出会うと、若者は成長します。シュトレーゼマンは、のだめも含めて千秋の取り巻きを、そういう場に出会う機会を与えたのですね。

■指導者像、教師像の描き方■

C:その意味では、この物語は、音楽の世界での指導者像、教師像というものを、まさに戯画化しながら、提示していますね。
B:そうそう。
  まずは、あのタヌキ教師、谷岡肇教授。私は彼が好きだなあ。
  江藤教授の「エリート塾」を追い出されてきた千秋が、何か壁にぶつかっているのを察知して、のだめの連弾指導をやらせる。
  彼は、人と人との出会いで大きな化学反応が生まれることを知っていて、その触媒になるんだよね。そして、千秋には「自分を磨く機会は、石ころのように足元に転がっている。学ぶ機会を拾えるかどうかは、本人しだい」ということを千秋に気づかせるのです。
  ヨーロッパで学ぶチャンスがないと嘆く前に、今目の前にある小さなチャンスから学ぶ。そういう小さなチャンスから学べないようであれば、大きなチャンスでも成功しない、と。
  それから、Sオケを存続させるためにも、一役買いますね。
  彼は、本当はすごく多角から遠くを見る視座を持っていながら、少し斜に構えていて、ほかの教授たちにはない独特の視点を打ち出すんだよね。で、それが、かなり的を得ている。
A:あの強引なハリセン、江藤先生もいいなあ。音楽的にはすごく繊細な心、デリカシーを、えげつない関西弁と強引な態度ですっぽり包み込んでいるキャラクターがいい。自分の思い込みにも酔いやすいのだが、それだけ熱血漢なのかな。
C:のだめのコンクール挑戦のための指導でも、がんばりますね。そして、のだめの千秋への思いを伝える役割を果たす、「粋な役」を演じる。
  着実な努力を積み上げていく姿勢は、千秋とも共通する。それゆえに、積み上げ式の努力や育成方法が通じないのだめには、ほとほと困り果てる。でも、のだめのピアニストとしての成長にとっては、江藤先生が果たした役割は大きかったのではないですか。
B:パリのコンセルヴァトワールの教授、オクレールさんもいいですね。
  強烈な個人主義の国、フランスだから、個性が突出したのだめの育成方法をあそこまで親身になって考えてくれるたのかな。ときに突き放しながら、非常に真摯な態度でのだめと向き合いますよね。シュトレーゼマンと違って、人格者だ。
  長期的な視点でピアニストの成長を考えてくれる。
  パリのアパルトマンでのだめたちとともに生活するフランクが惹かれたのも、オクレールさんのそういう懐の深さが演奏や指導に現れたからか。

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