消えたフェルメールを探して 目次
盗まれた絵画を追って
見どころ
発端 絵画強奪事件
フェルメールの幻の名画
イザベラ・ステュアートと美術館
美術品探偵ハロルド・スミス
FBIが調べた関係者
ボストン・ヘラルドの事件記者
メディアの活用
ある美術史家の推理
「警備員の犯行」説
ヤングワースの申し出
ある絵画泥棒の提案
アイリッシュ・コネクション

おススメのサイト
美術をめぐるスリラー
迷宮のレンブラント
 
ブ ロ グ
知のさまよいびと
信州の旅と街あるき

イザベラ・ステュアートと美術館

  イザベラ・ステュアート・ガードナー――結婚後に夫君の家名、ガードナー姓となる――は1840年4月14日、ニュウヨーク市の富裕な繊維品貿易商の家庭に生まれた。ステュアート家はスコットランドの名門貴族の末裔家門だという。彼女は上流家庭の娘として、少女時代に近隣の女学校でフランス語やイタリア語に加えて美術や音楽、舞楽などを学んだ。また近隣の教会学校で宗教画や儀典も学んだ。

  イザベラが16歳のときにステュアート家はフランスのパリに移住した。そこで通ったアメリカン女学校の同窓生のなかに、ボストンの富豪家系出身のジュリア・ガードナーがいた。ジュリアの生家ガードナー家は、合衆国ボストンにあって海運業や香辛料貿易で莫大な富を蓄えた家門だった。
  やがて1860年、イザベラはジュリアの兄ジョン・ロウウェル・ガードナーと結婚することになった。夫婦の間には息子が生まれたが、3歳になる前に死去した。イザベラはそのあと流産したことから、それ以後、妊娠でき ない身体になってしまった。しかも同じ頃、義妹ジュリアも死去してしま った。
  気落ちしたジョン・ロウウェルは事業から引退し、その後、社会奉仕や慈善活動――フィラントゥロピー――に専念するようになり、イザベラとともに主にパリを拠点としてヨ ーロッパやロシア、中東などを旅行して回るようになった。その間に、絵画や彫刻、金属器、ガラス什器など各地の美術品・高級工芸品を買い集めた。

  生まれて間もない幼子と義妹を亡くして悲嘆に暮れていたイザベラは、夫の勧めでともにヨーロッパ各地を旅して多くの美術品と遭遇するうち、とびきり上等の絵画作品や美術品・骨董品の蒐集を開始したらしい。あるいは、人知れず、将来、美術館(博物館)を創設する構想=夢を描いていたのかもしれない。
  すぐれた審美眼をもって国際的な視野で考え行動するスタイルは、やはり世界的に事業を展開する富豪=資本家の家門でないと身につかないのだろう。
  こうして少しずつ絵画を中心とする美術品を買い求めるようになった けれども、本格的に絵画蒐集に取り組むようになったのは、1891年に実父が死去して巨額の遺産を相続してからのことだった。いずれにせよ富豪だから、世界各地で一流の美術品を見聞する機会は多かったろうから、美術品の目利きになった。

  彼女はあくまで匿名を押しとおして、ひそかに美術品の蒐集事業を推し進めた。合法的に購入した美術品・絵画をまるで盗品を密輸するように、秘密裏に偽名を使わせて自分の手元に送らせたという。
  匿名性を貫いたのは、美術品蒐集家としての名前が世に出れば、画商や食わせ物が押しかけ、あるいは絵画の価格つり上げ工作を呼び起こすかもしれないと危惧したためかもしれない。こうしてイザベラは秘密裏に、電光石火のような早業で――ものすごく速いぺイスで――将来高値がつくかもしれない絵画を自分の所蔵品カタログに追加していった。

  さて1896年頃、夫妻はそれまでに蒐集した美術品が膨大な数に達して保管場所 としてはボストンの邸宅が手狭になったことから、美術館を設立することを計画し始めた。だが道半ばでジョンは1898年に死去してしまった。
  まもなくイザベラはボストン郊外の湿地帯フェンウェイに土地を購入し、亡夫が愛してやまなかったヴェネツィアのルネサンス風城館を模した様式の建物を建築して内部を美術品展示場とし、1903年に美術館として開館した。城館全体と絵画などの美術品の展示方式や館内レイアウトは、イザベラ自信が構想・設計した。

  1924年にイザベラ・ステュアート・ガードナー死去したが、彼女の遺言によって遺産から巨額の基金が美術館運営のために寄贈された。そして美術館の運営方法、展示方式(場所や位置、照明法など)に関して、イサベラは厳格で詳細な指示を遺言状に書き記した。
  彼女の遺言によって、以後、建物の構造や展示場所、方法については永遠に変更してはならないとされている。変更される場合には美術館は閉館され、所蔵品はすべてハーヴァード大学に寄贈されるものとされているという。

前のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済
SF・近未来世界