それでは、ここで映画バカとしての私の見方を示しておく。
◆どんな映画であれ、観たら何かをつかめ。
◆楽しさ、面白さを拾って来い。
◆見ることができただけ、ありがたいと思え。
◆考える素材を取り出せ。
◆ゴミからも宝物を探し出す鑑識眼(と心の広さ、好奇心)を持て。
上記のキャッチコピーの含意は、こうである。
まず何より、;映画から何を取り出すかは、その人しだいであるということだ。
「全然つまらない」という反応は、正直ではあるが、他方でその人の知識や経験、思考力の薄っぺらさを表すことになるということだ。少なくとも、物語のどのような展開が、あるいは人物の描き方だどのように、つまらなかったのかを考え、自分ならこうあする、くらいは考えた方がいいだろう。
もちろん、「面白かった」というなら申し分ない。だが、何が、なぜ、どのように面白かったのか(好みだったのか)を分析してみるといいだろう。
次に、制作者はなぜ、どのような意図ももとで、そういう物語や状況設定、人物配置にしたのかについて考えてみよう。
そして、制作者たちは、どのような準備をしたか、そのような設定、道具立ては、どのような考えによるものか。と考えて、彼らの方法論や目論見、意図、心理を、読み取るべきだ。もちろん鑑賞者の好き勝手に、だ。
ただし、自分なりの根拠づけ、起承転結をもって。
これは、映画で描かれた物語に対して、自分なりの物語仮説を対置させるということだ。作品の物語に欠落や説得力不足があれば、自分で補えばいい。
作品をもう一度観ながら好き勝手にイメイジを補っているうちに、それまでには気づかなかったことにハッと気づくことがある。
「ああ、そうだったのか」と。
そうなったら、しめたもの。どんな作品からも学ぶことがある。
どうしても、気に入らない作品は観なくてもいい。何を観るかは、好みしだいなのだから。
さて、では具体的な作品を取り上げて、検討してみよう。
この作品は、原作の物語がものすごく長大だった――翻訳文庫本で1300ペイジを超える。そのまま映画にすれば、少なくとも5時間にはなる。
この映画の日本向けヴァージョンでは、尺を伸ばしても約2時間ちょっとが限界。ということは、原作の物語をかなり絞り込んで映像化してある。
しかし、この物語は、全体の流れを一通り描かなければ、起承転結をつくることことができない構成になっている。だから、物語の要点をすべて羅列しなければならないという制約がある。
そうなると、脚本づくりと演出、映像編集はかなり難しい。相当の力量が必要だ。
この要件を満たしても、わずか2時間ばかりの作品にするとすれば、観客はスト−リー展開と人物描写などについて不満を持つだろう。
したがって、物語の筋立て=展開はかなり大雑把にしてある。
では、そのうえで、制作陣は何を提示したかったのか。テーマは何か。
私が考えるに、最有力のテーマは「超遠距離射撃の世界」(または狙撃手の世界)を映像化することだったのではないか。これを描き出せれば、物語の筋立ては多少大雑把でもいい、としたのではないか。
すると、次の問題は、このテーマをどのような状況設定のなかに位置づけるのか、ということになる。つまり、原作の物語が描いた事柄のどの部分を強調するかということになる――これは状況設定に絡む事柄だ。。
それは、
@アメリカ軍部と癒着した軍事コンサルティング企業の暗部
APKO活動のいかがわしさ――活動の背後には巨大資本の利権が絡んでいることがある――これは@と絡む
だと、私は勝手にこじつけたい。
狙撃という現象は、さまざまな状況のなかに組み込むことができる。たとえば、戦場という場面で。あるいは、政治的背景による都市での要人暗殺。
いずれにせよ、狙撃をめぐる状況をリアルに表現しなければならない。エティオピア高原での狙撃はスポッターのドニーの行動も含めてリアルに描かれている。
このことから、制作陣は、狙撃手とその補助者はフィールド(現場)でどういう動きをするかを精密に描き出したかったのだ、という強い意図が読み取れる。
次に状況設定の@とAを検討しよう。