謀略の手はマイケルに近づいていた。
マイケルは、教皇庁への長年の寄付・献金の功績によって「信仰擁護の騎士勲章」を授与された。この称号はカトリック世界では最も輝かしい勲章のひとつだ。
マイケルは長らく離別していた家族と和解して、実の娘を財団の総裁に就任させ、合法化路線を着実に歩んでいたかに見えた。
ところが、キルディ大司教は、勲章叙勲を機会にマイケルに近づいて、ヴァティカン銀行の威厳をちらつかせて、イモビリアーレへの投資話を巧みに提案した。そのさい、ヨーロッパで最大規模の不動産投資会社の株式――資本支配に十分なシェア――を獲得するために、6億ドルの出資を促した。
この巨額の資金は、粉飾財務の裏でじつは支払能力――膨らんだ融資額に対する自己資本ならびに流動資産の比率――の危機に陥っているイモビリアーレの破綻を一時的に先に延ばして、財務状況を取り繕うために使われるものだった。
ところが、コルレオーネ財団が出資してからまもなく、イモビリアーレは破産して、コルレオーネ財団が投資した資金は闇に消えた。
大司教はイモビリアーレの経営危機を十分知っていて、回収不能な資金を引き出させて、マイケルに打撃を与えたのだ。
しかも、強引なバブル経営が目にあまり、経営者としての不正行為、違法行為がマスメディアによって暴かれだしたカインジックをヴァティカン銀行はこのさい切り捨てて、怪しげな腐れ縁を断ち切るチャンスだ、とキルディは見極めていた。
だが、キルディ大司教の怪しげな銀行・企業との癒着や腐敗があまりにひどいので、教皇庁では改革派の進出が目覚しくなった。
そこに、キルディの後ろ盾だった現教皇が死去した。新しい教皇に選出されたのは、ランベルト枢機卿だった。大司教は窮地に立たされようとしたが、ここで、謀略の罠=凶刃が一気に発動された。キルディをはじめとするヴァティカンの極右翼勢力を背後で支える勢力が暗躍を開始した。
新教皇は毒殺され、マイケルにも暗殺者の手が迫っていた。
ランベルトは、シチリアの長老、ドン・トマッシーノの仲介でマイケルと連携した盟友だった。マイケルは、金融会社の合法性と健全性を守るために、ヨーロッパ・イタリアでは腐敗した勢力、闇の勢力と闘うことになったのだ。
そのような立場に立ちいたったのは、それまでコルレオーネ・ファミリーのドンとして暗躍してきたがゆえの帰結だった。このあたりの筋立ては、あたかもシェイクスピアの悲劇のようだ。
周到に仕かけられた罠=包囲網を察知したマイケルは、反撃に出ようとしたが、すでに年老いた自分の限界に気づいた。そこで、自ら引退してドンの地位を甥のヴィンセントの譲って、反撃と報復を彼の手に委ねた。
ここから、コルレオーネ・ファミリーのの冷酷な復讐戦が展開する。マイケルは人生の最後に、血で血を洗う戦い、暴力の連鎖に直面する。それは、彼が長年忌み避けようと奮闘してきたものだった。