合州国の中央情報局(CIA)。世界でのアメリカの最優位を確保し続けるために、国民国家としての知識=情報情報活動や軍事作戦、政治工作などを展開、さらには闇社会とのコンタクトもいとわない。その巨大な権力、保有する膨大な資源と人材、人脈のネットワークは世界全域におよび「長い腕」と呼ばれる。
だが、ゆえにこそ、組織内の政治闘争や駆け引き、内部パウワーポリティクスも激しく展開する。またときに組織の特定部門の「暴走」や「裏切り」も発生する。
これはCIAの迷走を描く名作。1975年作品。
原題は Three Days of the Condor 「コンドルの3日間」。原作は、 James Grady, Six
Days of The Condor, 1974 (ジェイムズ・グレイディ著、『コンドルの6日間』、1974年刊)。
コンピュータネットワークが発達してからこのかた、アメリカ合州国の軍事的情報通信傍受追跡システム「エシュロン échelon
」が何かと話題になっている。これには通信傍受だけでなく、世界中のあらゆる出版物も対象となっているらしい。このシステムには、日本やドイツなどアメリカと同盟条約を結んでいる諸国家も参加・協力している。
で、このシステムは、この原作によると、第2次世界戦争直前から構築が始まって、1960年代にはすっかり形を整えていたらしいことがわかる。そして、コンピュータ解析用の自動文字読み取り装置(OCR : optical configuration(code) reader )とキイワード検索システムはすでに1970年代初頭には実用化されていたらしい。
現在の私たちの生活や産業に利用されているITシステムの基本構造が、その時代にすでに開発・実用化されていたとは・・・。軍事情報システムの開発の勢いには、またく怖れいってしまう。
「国家のなかの国家」ともいわれるCIA。その組織の内部にも、「CIAのなかのCIA」というべき部門・部署が存在し、首脳部や管理部門の監視や統制を逃れて、秘密裏に自立的な活動を展開することもあるという。
まあ、諜報組織の活動には表向きの「合法活動 the legal 」と闇の世界と結びついた「非合法活動 the illegal」とがあるので、非合法部門と結びついた組織や活動が迷走ないし暴走する危険はつねにあるようだ。そういう問題は、ときおり内部告発され、スキャンダル化してきた。
ときには、内部の暗闘や組織内の人間の社会的ないし物理的抹殺さえ、平気でおこなう。そもそも、そういうことを冷静にビズネスライクにおこなう訓練を受け、資金や資源、人材、そして非公式=秘密のネットワークなどが与えられているのだから。そして、それらは「国家や国民の安全保障」という美名のもとに、いともたやすく正当化され、カクティヴ化されるのだ。
「さもありなん」と懸念される陰惨な事件を、フィクションとして見事に描いた問題作。
ジョウ・ターナーはCIAの調査研究職で暗号名は「コンドア(コンドル)」。職務は、中東方面を舞台とする政治スリラーやスパイ物小説を分析し、現実の中東情勢に関係のありそうなできごとやキイワードを探索、検索、調査する仕事。彼の職場は、外見上、民間の学術研究機関「文学史協会」を装っている。
ある日、ターナーが昼食にこっそり外出した時間中に文学協会を武装した集団が襲撃し、すべての勤務員を殺害した。ターナーが事務所に戻り、事件を発見し、自分たちが所属するCIA部門に緊急通報し、その指示にしたがって身を隠した。
ところが、ターナーは暗殺者にたちまち居所を発見され、抹殺されそうになる。襲撃が続いたことから、背後でCIAが糸を退いているらしいと気づいた。そこで、ターナーはCIAとの連絡を断ち、逃亡する。そして、生き延びるために真相を探り出すことにした。
やがて、ターナーはついに事件の真相、つまりCIA内部のある組織の暴走と暗闘の事実を突き止めた。彼はヒギンズ次長に身柄の保護を申し込むが、冷たく突き放された。ヒギンズとCIAは、政治スキャンダルになることを怖れて事件に完全にフタをかぶせ、闇のなかで暴走した組織責任者の「処分」とコンドルの「処理」に乗り出すことにしたのだ。
追いつめられたターナーに生き延びる道はあるのか。
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