ザ・バンク 堕ちた巨像 目次
国際金融権力の闇
原題と実在の事件
見どころ
ベルリン中央駅前
連絡官の暗殺
クレマンの死と兵器取引
カルヴィーニ暗殺
暗殺者を追い求めて
世界企業の犯罪と個別国家の障壁
ニューヨークでの捜査
美術館での銃撃戦
復 讐 戦
されど不死身の金融組織
IBBCのモデル…
反グローバリズムの陥穽
銃撃戦の舞台はなぜ美術館…?
首都の有力銀行乗っ取り計画
BCCIの策謀の顛末
おススメのサイト
国際金融スキャンダルの闇
神の銀行家たち
ゴッドファーザー V
プロローグ

■反グローバリズムの陥穽■

  ところで、「G7」だの「G8」だのと自称する主要諸国政府間の会議が開催されるたびに、「反グローバリズム」のスローガンを掲げた団体が押しかけて、さまざまなデモンストレイションやらプロテスト活動をおこなう。せいぜい、ここ30年間くらいの出来事なのだが。
  だが、グローバリズムは今に始まった事態ではなく、すでに11世紀から始まっている傾向である。というよりも、ヨーロッパ中世後期に商業資本の世界市場運動が始まって、西ヨーロッパ各地の有力王権と結託した商業資本の支配にとって都合のよい世界秩序が形成され、やがて一群の領域国家が、さらに多数の国民国家からなる世界経済の政治的・軍事的環境が生み出されてきたのだ。⇒資本の世界市場運動と国民国家の形成にかんする研究へ
  つまり、私たちが批判の目を向けるべきは、権力としての資本によるグローバリゼイション、資本によるグローバリズムなのだ。ただ一般的にグローバリズムに反対して「国民国家」の内部に閉じこもってみても、事態は悲惨になるばかりだ。というのも、国民国家という秩序も究極的には資本の権力の砦として機能するからだ。

  この意味では、そもそものはじめから特殊な形態の資本のグローバリゼイションがあったのであるから、いまさら現代にグローバリゼイションがはじめて出現し暴威を揮っている云々もない話である。グローバリゼイションは、この1000年間の人類史の支配的傾向なのである。世界大の権力闘争がまず生まれ展開していくなかで多数の国民国家からなるシステムが生み出されたのだ。国民国家という現象は、その意味では資本によるグローバリゼイションの1つの帰結にほかならない。

  問題は、グローバリゼイションの内容や傾向性なのである。
  むしろ根本的には、世界経済が多数の個別国民国家によって政治的・軍事的に分断=分割されている状況こそが問題なのである。
  つまり、階級格差を含めた所有や分配の敵対性や格差をもたらす資本蓄積・金融循環の仕組みが世界的規模で編成されているにもかかわらず、言い換えれば、階級対立や分配の敵対性は経済の世界構造からもたらされているにもかかわらず、資本の横暴を抑える規制システムとは弱者保護や所得再分配などの政策が個別国民国家の枠内で閉鎖的に形成され運営されていることこそが、絶望的貧困や敵対を解決する道を閉ざしているのである。


  ということは、グローバリゼイションそのもの、ないしはグローバリゼイション一般ではなく、その――過去から現今にいたる――形態・構造が問題なのである。
  資本による世界支配のための仕組み――この意味でのグローバリゼイション形態――はすでに強固にでき上がっているのだから、いまさら「反グローバリズム」と言ってみても、始まらない。巨獣の前でネズミが慌てふためいて騒ぐようなものである。
  私たちの課題は、グローバリゼイションの方向を転換するための道筋、プログラムを想像し描き出すことである。
  とはいえ、世界的規模で結集した巨大な資本の権力は、あまりに強大で、私たち市民がそれを抵抗で弱体化しようとしても、まず無理である。だが、小さな問題についての妥協と修正・改革を積み重ねるための交渉=説得を粘り強く続けるしかない。ただし、資本によるグローバリズムの横暴が人類全体を滅ぼす前に、この部分救済が大勢を変えるところまで進展するかどうかは怪しいが。だが、私たちは現代人類文明が滅びるまでは、その消耗な悪あがきを続けるしかないだろう。

  「先進諸国」内部での民主主義は「大いなる欺瞞」のレジームではあるが、それでも、そのレジームや市民的権利を活用して社会保障・社会政策やら弱者救済、環境問題やらをそれなりに少しずつ手当てしてきたことは事実である。
  そういう成果はあまりに小さくて、また速度が緩慢で、現代の貪欲で無際限な資本主義が地球環境とか生態系を破壊しつくしてしまうのに間に合わないかもしれない。たぶん間に合わないだろう。
  だが、それでも、大きな悪夢の前の小さな希望に賭けるしかないと思う。

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