ミッション 目次
原題について
考察のテーマと見どころ
あらすじ
物語の歴史的背景
ミッションの物語
ガブリエル神父
奴隷商人メンドーサ
アルタミラーノ枢機卿
インディオとともに生きた修道士たち
ガブリエルという名
南アメリカの「イエズス会布教区」
布教区の滅亡
イベリアの諸王朝の成り立ち
レコンキスタ
ヨーロッパの軍事的・政治的環境の変動
強大な諸王権の出現
ハプスブルク王朝の「大帝国」
できそこないの「フランケンシュタイン」
「国家」が存在しない時代
王権や王国の実態
それでも立派な見栄え
帝国の分裂と反乱
財政危機の深刻化
教会組織の地位とイエズス会
ポルトゥガルの事情
財政危機の深刻化

それでは、この物語の背景にある歴史、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパ世界経済=世界システムの権力構造の転換の状況を、エスパーニャに焦点を当てて、見ておきましょう。

イベリアの諸王朝の成り立ち

  中世晩期から近代初期にかけてイベリア半島に勃興することになるキリスト教諸王権は、イスラム勢力を駆逐するレコンキスタ(領土再征服運動)をつうじて形成されました。
  中世のイベリア半島では、イスラム勢力が支配していました。

  8世紀はじめ、北アフリカからジブラルタルに渡ってきたイスラム勢力は、多数の小さな部族諸侯国に分裂していたヒスパニア(ローマ帝政期以来のイベリア地域の呼び名)の大半をまたたくまに征服してしまいました。
  歴代のイスラム諸王朝は、徴税に逆らったり秩序に反乱を企てたりしないないかぎり、キリスト教徒を含む異教徒民衆には寛大でした。

レコンキスタ

  一方、イスラム王朝の権威への臣従を拒むキリスト教の君侯・領主たちは、イベリアの北端や北東部に追いやられました。
  北端とは、ガリシア・アストゥリアス地方やカンタブリア地方、そして北東部とはピレネー地方やカタルーニャ地方のことです。
  そして北部から東部にかけて、ピレネー、ナバーラ、カタルーニャなどの地方は、フランク王国の権威になびいていたのです。というよりも、旧フランク王国(ガリア)をめぐる勢力争いに大いに入れ込んでいました。
  ナバーラやカタルーニャの君侯たちは、むしろ自らをフランク王国の有力領主(ナヴァール公とカタローニュ伯)だと意識していたようです。

  これらの地方の君侯・領主たちは、他方で、イスラム勢力が征圧するイベリアの中央部や西部、南部を奪い返そうと企図していました。それはまた、イスラム教を駆逐してキリスト教を広めようとすることなので、その意味では、イベリアでの「十字軍運動」とも考えられていました。
  ことに10世紀になると、ヒスパニアの辺境部に追いやられていたキリスト教君侯・領主たちは、「異教徒討伐」「十字軍」などの名目を立てて、イベリアの奪回=再征服(レコンキスタ)をめざすことになりました。
  そのため、王権や宮廷での修道会などの宗教組織の影響力がきわめて強くなりました。

ヨーロッパの軍事的・政治的環境の変動

  おりしも、西ヨーロッパでは各地で森林伐採による農耕地の開墾が進み、都市と遠距離商業が発達し始めていました。農業=食料生産と交易網の発展にともなって、中世的な「帝国」や「王国」の秩序観念が崩壊してしまいました。
  農村の開拓と遠距離商業の発達を背景として、各地方の領主が勃興して旧来の君侯の権力を奪い取り、分立割拠しながらそれぞれの支配圏域の拡大をめざして熾烈に闘争する状況になっていきました。

  その結果、およそ400余りあったフランク王国の公領・伯領は、さらに小さな領主支配圏に分裂していきます。分裂しつくすと、こんどは小さな単位の膨張のための食い合いが始まりました。
  それらの勢力争い、生き残り争いの結果、より強い領主が弱小領主を統合して、かつての伯領や公領に匹敵する「侯国」が形成されていったのです。
  イベリア半島では、こうした政治体や軍事的単位の生き残り競争と食い合いによる膨張が、再征服=イスラム勢力の駆逐と結びついて繰り広げられました。

  11世紀にイスラムの西カリフ王朝が崩壊して、小さな侯国に分裂してしまいました。そうすると、ローマ教会聖職者を含むキリスト教諸侯が指導する再征服と王国形成はさらに勢いを増すことになりました。
  そして、キリスト教君侯たちはイスラム勢力を駆逐するだけでなく、互いに支配の拡大をめぐって争っていきました。やがて、数多くの小さな王権は淘汰され、あるいは合従連衡して、少数のより大きな王権がつくられていったのです。

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