映像物語と音楽 目次
中世からルネサンスへ
誇張=バロックの時代
「古典派」の時代
総合芸術の時代
映画の誕生
映画と音楽
名画と名曲のコンビネイション
印象的な映画音楽
1 レッドオクトーバー…
2 ミッション
3 アマデウス
4 オーケストラ!
5 V フォー ヴェンデッタ
6 小説家を見つけたら
7 スターウォーズ 「帝国のマーチ」
小  括

7 スターウォーズ 「帝国のマーチ」

  参照記事⇒スターウォーズ

  《現代映画の音楽》あるいは《映画と音楽》というテーマを考えるとき、私の脳裏に真っ先に浮かぶ人物が、ジョン・ウィリアムズとエンニオ・モリコーネという双璧の巨匠だ。モリコーネは、今年2020年に冥界に旅立った。
  で、生き残っている巨匠ジョン・ウィリアムスといえば、作曲・編曲、演奏指揮した映画楽曲は無数にあるが、最も輪郭が輝いているのは、何といっても「スターウォーズ」。
  彼の音楽には、クラシック音楽の古典的様式・方法としてのライトモティーフ Leitmotiv が縦横に駆使されている。いや、映像物語(出来事や登場人物)と音楽との密接な結びつきはまさに圧巻だといえる。彼の極が流れると、瞬時に、自動的に物語の場面や人物たちが頭のなかによみがえってくる。
  なかでも私に脳裏に焼き付いているのは、「帝国の逆襲 The Empire Strikes Back (帝国は逆襲する)」の「帝国のマーチ The Imperial March 」。
  この楽曲こそ、現代映画音楽がヨーロッパの古典音楽とどれほど密接に結びついているかを示し、その方法論と仕組みを確固たる土台にして組み立てられ、演奏されていることを反論の余地なくデモンストレイトするのだ。


  SF小説やSF映画では、あのアシモフを嚆矢として、銀河帝国 Galactic Empire は何度もテーマや背景として取り上げられ、描き出されてきた。銀河宇宙を舞台とする超未来の空想科学物語なのに、「帝国」という人類史の古代から中世にかけて存在した、いささか古臭い政治的=軍事的レジームが築き上げられているところが、奇妙で興味深い。
  ものすごく開明的で進歩しているはずの超未来の科学技術文明が、古臭い専制支配や独裁、専横的で傲岸不遜な暴君支配と結びついているというわけだ。最も先進的で進歩的なものと、滅び去った過去の遺物、2つがいかにもありえそうな必然性感で一体化している。それは、際限のない科学技術開発が人類の解放と自由ではなく、不自由と独裁、理不尽に行き着くかもしれないという悲観的な不安や予感を呼び起こすということか。
  
  ともあれ、映画の物語はこうだ。究極の超兵器デススターを共和派連合軍によって破壊された帝国は、いまだ銀河世界での強固なヘゲモニーを保持していて、帝国軍の監視網を逃れて雪氷の惑星に逃げ込んでいる共和派軍の殲滅をねらっていた。
  帝国の偵察情報網はものすごく、ついに惑星は発見され、大規模な遠征軍が派遣された。だが、映像物語はここでも、滑稽なくらいに古びた見栄えの兵器を登場させる。超未来の光速兵器や軍備を備えているのに、雪氷源を進む帝国軍の主力は、あたかも滅びたマンモスのような四脚歩行の駆逐兵器ではないか!
  この素晴らしいアナクロニズム――時代錯誤と訳すが、本来は「時代・時間の尺度がすっかり狂っている」という意味――。そんな戦闘場面に先駆けて、宇宙を航行する大都市をそのまま宇宙船に仕立てたような、長さ数キロメートルにおよぶ帝国の巡航宇宙艦からなる大艦隊。そして、惑星上でのすさまじい戦闘。
  そういう場面と帝国の権威、威力を想起させるのが、あの帝国のマーチだ。別名「ダースヴェイダーのテーマ」。
  この重厚な音楽は、この編以降、帝国軍の集結・進軍、とりわけダースヴェイダーの登場のさいに、あるいはそれを予告するように場面の背景に流れることになる。

  この楽曲は、フレデリック・ショパンのピアノソナタ第2番変ロ短調の「葬送の行進曲」とグスターフ・ホルストの惑星「火星、戦をもたらす者」を下敷きとしているという。ホルンと打楽器の重々しいリズムと旋律が、銀河系と惑星系のはるか彼方からまるで重力の波のように押し寄せてくるようなイメイジ。その圧倒的な存在感と構築性がすごい。
  ところで、今年2020年8月、この曲の作曲者ジョン・ウィリアムズがウィーン・フィルハーモニーを指揮して彼の映画音楽を演奏し、世界に発信した。ウィーンではことのほか好評を得たのだとか。

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