次にポストマンが訪れたのは、ヘニングズという集落だった。パインヴュウで預かった手紙のいくつかが、この集落の住民宛だったからだ。そして、この集落の住民たちも、ポストマンの語る物語を信じてしまった。というよりも、まさに彼らが渇望していた要求、希望にしがみついたというべきか。絶望のなかのただ一つの光明に。
集落の長は、ポストマンの受け入れがホルニストの憎悪と抑圧を強めかねないという恐れから、態度を決めかねていた。
だが、集落の障壁門の警備兵――彼らは住民の1人として連邦郵便サーヴィスの再建を信じてしまっていた――が、近づくホルニストたちに発砲し、集落への接近を拒否していた。小競り合いと散発戦は始まっていて、いよいよ本格的な戦闘に発展しそうな気配だった。
メイヤーは、ポストマンに政府機関の1人として、ホルニスト軍団と停戦の交渉をするよう求めた。白旗を掲げて、ポストマンはホルニストの陣営に赴いた。
だが、ホルニストはすでに大規模な攻撃を開始していた。重火器の砲撃。彼らは殲滅戦を仕かけようとしていた。ベトゥレヘムは、どのみちこの集落を全滅させるつもりだった。そのほかの集落、住民共同体への「見せしめ」として、つまり恐怖心を植えつけるために。
ポストマンは銃殺されることになった。軍団の1隊長がポストマンに銃口を向けたそのとき、M16アーマライトの銃弾が隊長のこめかみを射抜いた。ポストマンが振り返ってみると、あのアビーがただ1人、敵陣のただなかで戦っていた。アビーの標的はベトゥレヘムに変わり、首領はドラム缶の陰にかろうじて身を隠した。
死を恐れずただ1人で戦う美女。まるでドラクロワの絵画のなかの「自由の女神」のようだ。本作品屈指のシーンだ。
いきり立った首領は怒鳴って、兵員たちにアビーへの攻撃を命じた。
ポストマンは馬を奪って、銃弾の雨のなかをアビーのもとに走り寄り、片腕で馬上に抱え上げて逃げ去った。だが、敵の銃弾がポストマンの腹部を貫通していた。
そのまま、2人は山岳に逃げ込んだ。山岳には厳しい冬、氷雪が迫ってきていた。
身を潜めた山奥の小屋で、重傷を負ったポストマンをかいがいしく介護した。それに対して、ポストマンは怪我をいいことに安逸な休養に浸っていた。この主人公は、じつに「ことなかれ主義」への逃避性向が板についている。その反対に、能動的な努力家はアビーだ。冒険も労苦も恐れない。怯まずにリスクを引き受けて果敢に挑戦する。
彼女は、食糧が底をついたら、乗ってきた馬を殺して食肉にする。そして、ポストマンが安逸に逃げようとすれば、小屋に火をつけて、山を降りざるをえない状況をつくり出す。おりしも、冬が去りゆこうとしていた。