ポストマンとアビー、そして2人のあとを追った若者3人は、巨大なダムを砦とする集落、ブリッジシティに身を寄せた。そこは、ダムに付随する水力発電機が動いていて、電力を自前で供給していた。豊かな水資源と堅固なダムの砦、そして自前のエネルギーにおかげで、ブリッジシティは、ホルニストの軍事的脅威から完全に独立していた。
一方、ポストマンからの使者としてホルニスト軍団に赴いたフォードは、やはり予想どおり捕虜になり、処刑を宣告された。捕えられていたもう1人の若者とともに。
その処刑の直前、郵便組織にスパイとして潜入していた若者が、ホルニストの本拠に帰還した。
彼は(功名心から)ホルニスト軍団での栄達を夢見て、スパイとして郵便組織に潜入していた。だが、この若者は、郵便組織に参加してから、若者たちが自由な意思と理想にもとづいて高い勇気と自己犠牲の精神をもって、高い士気と自発的な規律を保持して、任務を追求する姿勢に、心ならずも深い敬意を抱くようになっていた。
そしてしだいに、暴力と抑圧・威嚇と利己心によって軍団そのものと住民集団を謝意するホルニストの組織原理や運営方式に、懐疑を抱くようになっていた。とくに、若者集団のリーダー=オルガナイザーとしてフォードを尊敬するようになっていた。
とはいえ、首領ベトゥレヘムへの心酔、というよりも軍団のなかでインプリントされた盲従=マインドコントロールから抜け出るところまでは進んでいなかった。軍団への懐疑・不信と首領への畏怖とのディレンマに陥っていたのだ。
彼がホルニストの本拠に戻ったとき、フォードの処刑が始まろうとしていた。
若者は、フォードを殺させないようにするため、首領に、フォードは処刑せずに生かしておいて、ポストマンを補足するための人質として利用した方がよい、と提案進言した。 ベトゥレヘムは提案を受け入れ、フォードだけは処刑せずに生かしておくことにした。そして、ポストマンに使者を送って通告した。姿を現さないと、フォードを処刑する、と。
ブリッジシティに身を寄せていたポストマンは、この通告を受けて、ベトゥリヘムと戦う覚悟を決めた。この集落の市長の助言を得て、彼はダム湖の対岸の集落に身を移して対決の準備を整えることになった。
パインヴュウ近くの草原が、決戦の場所となった。
ポストマンがホルニストに決戦を挑むというニュウズは、たちまち一帯の集落・住民のあいだに伝わっていった。決戦の場に向かうポストマンの周囲には、各地から多数の志願兵(ヴォランティア)が駆けつけ、パインヴュウの近くに到達する頃には、巨大な集団に膨れ上がっていた。
ホルニストの側も、全軍団が隊列を整えて、決戦場に向かった。
双方ともに武装した騎兵団をなしていた。
だが、この事態にはすでに権力構造の転換への動きが明白に見られる。暴力と恐怖によって民衆を分断することで優越と支配を手に入れていた集団に対して、民衆が結集して独自の政治的凝集を形成し始めたからだ。