この映画は、1930年代、アメリカの大不況期から活躍が始まって、不況で打ちひしがれた民衆のリカヴァリーの夢を担った、伝説的な競走馬「シービスキット」と、この馬をめぐる人びとの物語を描いている。惨めな敗北や挫折を味わった者たちの夢や尊厳の回復を歌った美しい叙事詩、抒情詩である。
そして、馬という美しい生き物が力強く大地を蹴り走り抜ける姿を、迫力満点に描いた映像物語だ(2003年作品)。
映画作品の原題は Seabiscuit (シーピスキット)。本来の意味は「安価な固焼きクッキー」。長期間の保存に堪えたので長期の航海や軍事遠征の保存食として利用されたことから、「航海用のビスキット」と呼ばれるようになったという。
このビスキットは硬くてたいていの人の歯をはね返すほどなので、周りの人を弾き飛ばすほどの気難し屋とか癇癪持ちを「シービスキット」と呼ぶようになった。この映画では、「主人公」となっている気難しくて気性の荒い競走馬の名前となっている。
原作は Laura Hillenbrand, Seabiscuit: An American Legend, 2001 (ローラ・ヒレンブランド著、『シービスキット:アメリカのある伝説的な物語」』、2001年刊。原作の物語は、映画の物語よりもずっと複雑で長い。映画ではかなり脚色され、物語は単純化されている。
実話についてのドキュメンタリー映像もある(画像右下)。
見どころ:
敗北や挫折の結果、脱落者とか敗北者、埒外者という烙印を押され、長いあいだ不遇をかこつ人びと、そして馬たちが、尊厳と自信を回復し、人生の目標や生きがいを取り戻していく物語の構成がすばらしい。
しかも、迫力満点のレイス――競走馬が疾駆する――場面の映像も5つ星級。
才能豊かだが、機会に恵まれず厳しい環境に置かれながらも精励し続ける、自己抑制に富んだ人びと(馬も含む)の絆や友情を描いた物語でもある。
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