ヴァンティジ・ポイント 目次
目撃情報のモンタージュ
原題について
見どころ
大統領狙撃事件
警護官トーマス・バーンズ
刑事エンリーケ
旅行者ハウワード・ルイス
  ハウワード・ルイス 続き
アメリカ大統領アシュトン
「テロリスト」ハビエル
スアレスとヴェロニカ
8人目の目撃者
組み上がった光景
激  突
物語(筋読み)の勘違い

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8つの目撃情報のモンタージュ

  かつて黒沢明は映画『羅生門』で、――芥川龍之介の『羅生門』と『藪の中』を原作として――同じ事実(できごと)は見る者の立場によってそれぞれ異なるものだということを映像物語として表現にした。
  映画「ヴァンティジ・ポイント」――2008年作品――も、エスパーニャでのアメリカ大統領狙撃事件の真実を、8人の目撃者それぞれの視点から見た光景を合成して描き出そうとしている。映像物語の表現方法としては、じつに興味深い。
  エスパーニャ西部の都市サラマンカのマヨール広場で、式典行事に臨んだアメリカ大統領が狙撃されるとともに大爆発が起きた。テロ事件だが、しかしその見かけほど事件の構図は単純ではなかった。
  大統領警護官やアメリカ人観光客をはじめとする主要な登場人物たちの目撃光景が織り合わされて、事件の経緯や背景が解明されていくことで、複雑な政治的謀略の構図が描き出される。

原題について

  原題は Vantage Point 。
  英語で vantage とは一般に「有利な立場」とか「特有の利点をともなう立場」「その立場の人にしか得られない特典」を意味する。有利な立場とか利点、特典を意味する「アドヴァンティジ advantage 」は、このヴァンティジに、もともとはラテン語の「前の」「前もって」「優位」などを意味する形容詞・副詞をアドを接頭語としてつけて合成した用語だ。
  ヴァンティジ・ポイントとは、「有利な視点」とか「その位置でしか見えない風景」「その立場の人にしか得られない特典」を意味する。つまりは、「それぞれの目撃者の立場からの視点」とか「人それぞれの事実認識」ということになる。
  この映像物語は、8人の登場人物それぞれの視点から見た大統領狙撃事件の顛末を合成して、事件の経緯と背景、政治的陰謀の構図の全体を描き出している。

見どころ
  エスパーニャ王国サラマンカ市のマヨール広場で起きたアメリカ大統領狙撃事件を目撃した8人の「事実認識」が合成モンタージュされて、事件の真相が描き出されていく。
  同じ1つの場所での1つの事件(できごと)がカットバック手法で、8つの視点から映像表現される。この映像表現の方法は、黒沢明が『羅生門』で駆使して以来、世界中の数多くの映像作品で繰り返されてきた。時代小説では池波正太郎が駆使した物語の展開法でもある。
  ただし、この映画では、《真実は見る人の立場によって異なる》というものの見方を表現するのではない。
  この作品では、大統領暗殺の陰謀のからくりが、8人の視点=目撃情報を合成することで、次第に解明されていくことになるのだ。

  2001年9月11日のアメリカ合衆国でのテロ事件が起きてから、アメリカはアフガニスタンとイラクでの無謀な戦争と「テロリスト狩り」を始めた。その間の経緯は、表向きでは先進諸国の軍事的・政治的同盟を強化したかに見えるが、むしろ世界秩序とか平和に関する立場や利害の深刻な対立が・亀裂が目立ち始めるようになった。
  立場や利害によって事実認識とか事実の評価は異なるということも、明白になった。
  この映画は、そういう価値観の分裂や対立のアナロジーとして、8人の目撃者が見た事実(陰謀)の断片をつなぎ合わせ、合成することで、複雑に絡み合った「1つの現実」を描き出す。
  登場人物それぞれの立場や視点の違いを描きながら、現実は個々の事実の複合的な絡み合・連鎖から成り立っているのだという見方を提示しているのではないだろうか。

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