ファシスト政権のもとでロンドンは戒厳令状態で夜間外出は禁じられていた。武装警察が夜間の民衆弾圧を担当し、彼らに見とがめられた一般市民はなぶり殺しにされた。ところが、テレヴィ局の雑用係の若い女性、イーヴィは深夜こっそり外出していて警察隊に発見されてしまう。だが、あわやという場面でガイーフォークスの仮面をつけた男に救出された。
彼は政権への反逆と復讐をめざしているらしく、象徴的な建築物や政権の指導者たちを次つぎに血祭りに上げていく。
Vの復讐は執拗に続き、かつてラークヒル収容所で政治犯へのヴィールス感染の人体実験と生物兵器開発を推し進めた人物たちを次々と殺害していく。
一方、イーヴィは復讐を続けるVのもとを逃げ出し、テレビ局BTNの制作ディレクター、ゴードン・ディートリックのもとに身を寄せ、匿われた。ところが、ホモセクシュアルで政権に反発しているゴードンは、サトラーを揶揄し反逆者Vを持ち上げるような風刺のきいた番組を制作したことから、当局に弾圧・捕縛されてしまった。
そして、イーヴィ自身も警察にとらわれ収容所に送られて、毎日厳しい尋問と威圧を受けることになった。
Vは民衆に政権への不服従や反逆を呼びかけ、「ガイ・フォークス記念日」に政権を追いつめるような大事件を起こすと宣言し、反乱への市民の参加を煽動した。それは、民衆の反抗を呼び起こし、政権党ノースファイアーの内紛と自壊を引き起こそうとする計画だった。まもなくVの策略に乗って、ノースファイアー首脳部の自壊が始まった。
だが、サトラーは焦燥に駆られて、武装警察と軍を動員して苦境を乗り切ろうとしていた。首都には厳戒態勢が敷かれた。だが、他方では、政権幹部のクリ―ディが最高権力掌握をねらってサトラー抹殺を謀っていた。そして、ついに11月5日がやって来た。
武装警察を市民抑圧のために動かしているのは、ノースファイアー―― Norsefire : 「ノルマンの火」 「北欧の火」――という全体主義的政党が組織する政権だ。ノースファイアーの党首は、アダム・サトラー。
ノースとは、ここでは一般に「北欧」や「スカンディナヴィア」「北方ゲルマン族」を意味する。ここでは、古代のアングリア王国または中世のイングランド王国を建設したノルマン諸族――北ドイツ出身のアングル・ザクセン人やデーン人――を指すものと解釈しておく。というのは、この党は、ブリテン国家の古い由来にこだわる過激な民族主義の装いを凝らしているだろうからだ。
さらに、かつてアドルフ・ヒトラーが北欧ゲルマン諸族へのロマンを抱いていたことへのアナロジーを想起させ、さらにノースファイアーのナチズムへの親近性を暗喩しているものと思われるからだ。党首のアダム・サトラ―の名前も、なにやらアドルフ・ヒトラーを連想させるような気がする。