V フォー ヴェンデッタ 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
社会状況の設定について
暴力組織になった警察
ガイ・フォークス
イーヴィとV
オールドベイリーの爆破
当局の宣伝報道
後手に回る独裁政権
番組ジャック
当局の情報操作
Vの隠れ家
熾烈な復讐戦
イーヴィの生い立ち
司教の殺害
死を待つ女性検視官
暴かれた真相 Vの誕生
ノースファイアーの謀略
イーヴィの試練
ゴードンの勇気
イーヴィの苦難
「ガイ・フォークス記念日」
Vの撹乱作戦

ゴードンの勇気

ゴードンはそのことをイーヴィに告げて、いっしょにその番組を観ることにした。
  番組は娯楽バライェティ・ショウだった。その日のゲストは、ノースファイアー党首サトラー(そっくり扮した喜劇俳優)だった。サトラー役は、見栄っ張りで臆病な独裁者の役割を演じていた。
  ゴードンは司会としてサトラーを歓待しインタヴュウする役目だった。
  インタヴュウは、武装警察がBTNの放送局でVを射殺したという当局の発表をめぐって始まった。ところが、インタヴュウの最中に会場にV(に扮した役者)が現れて、ちょこまかと動き回り、サトラー役を牽制しからかい始めた。つまり、当局の公式発表は虚偽で、Vは活発に動き回っているという状況を芝居がかった演出で描き出したのだ。
  ドタバタ喜劇が始まった。

  サトラーは目の前をうろちょろするVに腹を立てて自ら追いかけながら警察隊を呼んだ。そして、Vを捕まえると取っ組み合いを始めた。そうして、ついにサトラーはVを捕えると、警察隊に向かって「この男を殺せ!」と命じながら、ガイ・フォークスの仮面を剥ぎ取った。
  すると、仮面の下から現れた顔はサトラーと同じだった。
  銃を構えた警官たちは迷った。目の前にサトラーが2人いる。そして互いに相手を指して「こいつを殺せ!」と罵り合うのだから。迷いながら警官たちが射撃したのは、「本物のサトラー」だった。
  Vは舞台の雑踏のあいだに見え隠れしながら、逃げ回り続ける…というような筋だった。
  これを観ていた視聴者は、抑圧者サトラーが翻弄されからかわれる様子に大笑いで快哉を叫んだことは言うまでもない。日頃のうっぷん晴らしだろう。そして、権力を揮ってきた相手を笑いのめしたことで、多数の民衆は、政権を風刺批判する勇気を、少なくともその一瞬だけは回復したかに見えた。

  ゴードンは同性愛者だった。だが、政権がイングランド教会の戒律に反することをことごとく厳しく禁圧したことから、「ノーマル」を装っていた。そのこともあって、政府の全体主義的抑圧に対して強い憤りや反感を抱いていた。というのも、ゴードンはかなり硬派のリベラリストだからだ。
  けれども、BBCがBTNに改変されてからは、映像作家・制作ディレクターとしての表現や創作の自由を奪われてしまった。つまりは、創造活動を封じられてしまった。そのことが、彼を確信的な反政府論者にしていた。
  イーヴィが驚いたことに、ゴードンはワイン棚の奥に秘密の部屋(隠し部屋)をつくり、そこにノースファイアーを批判し風刺する反体制芸術作品を蒐集していた。サトラーをヒトラーになぞらえた絵画、エリザベス女王になり代わったサトラー、禁書となっている『コーラン』などを。
  強硬なイングランド教会主を標榜するノースファイアーは国内では、異教(カトリックやイスラム教など)を禁止していた。だから『コーラン』は禁書となったのだ。しかし、イスラム教では、『旧約聖書』『新約聖書』をも聖典に位置づけているので、『コーラン』だけを禁じるのは、論理矛盾である。

  それにしても、そんなゴードンのコレクションが当局に発覚すれば、ただちに拘禁、弾圧を食らう。だから、いまさらイーヴィを匿ったところでどうということはない、ということを、ゴードンはイーヴィに示したのだ。
  反政府的な風刺番組を制作して放送するについては、ゴードンはそれなりに覚悟を決めていた。ある意味で、Vの行動と問題的に呼応した動きでもあった。

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