スーザンは納得したわけではなかったが、昏睡事故の原因追求の方途はこれで閉ざされてしまった。で、週末は休暇を取り、マークと海岸でのデイト。2人は親密さを取り戻して、気分転換もできた。
ところがその帰り道、緑豊かな森林地帯のなかをドライヴしている最中に「ジェファースン研究所」の案内標示が見えた。スーザンは、マークに車をUターンさせて、研究所の広大な敷地に乗りつけた。
「昏睡状態の患者は、ジェファースン研究所に送って治療する」という病院の事務担当者の言葉が、スーザンの脳裏によみがえったのだ。
鉄筋コンクリートの無機的な、巨大な建物群。建物の外部・周辺に人の気配はまったくない。そして音のない静寂な空間。
スーザンは、建物の入り口まで1人で近づいた。なかの様子を探っていると、白衣の女性看護士(Mrs.エマースン)が1人現れた。監視モニターがある。玄関に近づく者があれば、対応に出てくるようだ。
怜悧な表情。
その女性看護士は、許可なしに誰もこの建物への立ち入りは許されない。けれども、定期的に見学会があるから、医学関係者ならばそれに参加を申し込めば、内部を見学できると説明した。次回は3日後の火曜日だという。
スーザンはこの研究所に得体の知れない疑惑を抱いたが、引き返した。
週末の休暇から病院に戻ると、ふたたび研修医としての繁忙な毎日が始まった。スーザンはいくつもの手術の助手を務めることになった。
あるとき手術のあと、スーザンは、医療ティームの準備室で休憩を取っていると、近くの壁の電気回路を修理している設備保守管理係の男が、周囲には聞こえないような小さな声で話しかけてきた。
第8手術室でなぜしばしば昏睡=脳死事故が発生するのか、その秘密の仕掛けを発見したというのだ。調べたことを説明するから、勤務時間が終わったら、地下の設備管理室に会いに来てくれというのだ。
その男は、先日、スーザンが麻酔科部長に資料を見せてほしいと頼み込んでいるのを、やはり補修の最中に見ていた。コーマ事故が頻発する原因をスーザンが探っているのを、そのとき知ったのだという。
ところが、そのあと、その保守管理係の男が設備管理室の清掃をしているときに、見知らぬ男が近づき、管理係に清掃用の水を浴びせかけたうえで、露出した配電盤に突き当てて感電死させてしまった。見知らぬ男は、仕掛けを見破った管理係を始末するために送られてきた殺し屋だったのだ。
スーザンが管理室を訪ねたときには、すでにこの事故死(感電死)についての警察の調査が終了して、男の死体を検視解剖に向けて送り出すところだった。ゆえに、スーザンは脳死を引き起こす秘密の仕掛けを聞き出すことはできなかった。
けれども、地下管理室には麻酔ガスや酸素のボンベが置いてあった。それは手術室の患者の呼吸用マスクに供給されるはずのものだった。スーザンは、そのガスの供給管がどこまでつながっているのか調べることにした。
配管は、地階から数階上まで上がって手術室の天井までいくようだ。ところが、その配管の途中にタイマーと接続した一酸化炭素のボンベが設置され、第8手術室への配管に連結されていた。つまり、麻酔後数分経過すると、酸素の代わりに一酸化炭素を患者に供給して、脳死を引き起こすような仕掛けになっているのだ。
ところが、このスーザンの探索の様子を監視している目があった。あの殺し屋だった。スーザンは忍び寄る危険を察知して逃げ出した。追いかけてくる殺し屋から逃れるため、スーザンは出会った医師と一緒に歩いたりしたが、追っ手の手は迫ってきた。
結局、視聴覚室に追いつめられたが、何とか逃げ出し、偶然、マークと出会って窮地を逃れることができた。