一方、警視庁は空港や港湾、ターミナル駅、道路管理局などにジェイムズの写真を送って、発見しだいに拘束するように指示した。そして、暗殺事件の概要をメディアに公開した。
さて、学校を休んでいるエミリーは、自室のテレヴィで、ジャハール暗殺事件の報道を見た。ただ1人の友だち、ウィットニーの本名がテリー・ウィンチェルで、暗殺犯の共犯で銃撃で即死したことを知った。そして、ジェイムズが暗殺犯らしいことも。だが、彼女はジェイムズを匿い続け助けようと決心した。
ジェイムズは、ジェレミー・コリンズの腹のうちが読めていたので、独力でブリテンから脱出する方途を考えていた。エミリーの心配を無視して。
彼は変装もしないで、ヒースロー空港に向かった。
だが、空港ではスコットランドヤードの捜査陣が捜索態勢を固めていた。ジェイムズの写真も配信されていた。そのうえ、CIAのティームも乗り込んでいた。
ジェイムズはどうにか搭乗ゲイトでの検査を切り抜けて、搭乗待合室に入った。だが、彼は自分の姿を監視する視線を感じた。警察官の視線ではなく、殺しのエイジェントの視線を。
そこで、場内アナウンスを利用して、CIAが知っているジェイムズの偽名(ジョン・マーフィー)あてに電話が入っているので、指定の電話ボックスで受信するように放送させた。すると、1人のCIAのエイジェントがその電話ボックスに向かう動きが起きた。陽動に引っかかったのだ。
隙を見てジェイムズは非常階段から発着場に降りようとした。だが、エイジェントは彼の動きを見逃さなかった。ジェイムズのあとから銃を手に階段に迫った。追跡者を察知したジェイムズは、踊り場から、ちょうど下を通りかかった手荷物運搬車(小型トレイラー)に飛び降りた。
そのまま貨物コンベイヤー室(暗闇状態)に逃げ込んだ。けれども、CIAエイジェントたちはジェイムズの逃げ道を察知して追いかけた。
一方、空港内に警戒態勢を敷いたヤードのウィンザー警視もまた、ジェイムズの足取りを追跡していた。そして、偶然、貨物コンヴェイヤー室でジェイムズを発見した。警視は銃口をジェイムズに向けて停止させ、ジャハール狙撃事件について尋問した。ジェイムズは何も隠さず率直に返答した。
「名前はジェイムズ・ダイアル。CIAの要員だ。識別番号は52−77。ジャハール暗殺はCIAからの依頼で遂行した任務だ。この作戦の指揮者は、ジェレミー・コリンズ…」と。
「ジェレミー・コリンズだというのか。あの野郎…。とにかく、君を拘束する。抵抗をするな」とウィンザーが命じた。
そのとき、2人の会話を聞いていたジェレミーが、背後からウィンザーの心臓を撃ち抜いた。この場合には、ジェイムズよりも先にブリテン警察組織の幹部であるウィンザーを抹殺することが、自らのスキャンダルを隠蔽し、外交上、政治上のスキャンダルを回避するための必要手段だからだろう。
続いて、ジェレミーはジェイムズを狙い撃ちしたが、仕損じ、ジェイムズは闇に消えた。
ジェイムズは、空港内の搭乗スタッフ専用口にやって来て、ロッカールームに入り込んだ。そこで、パイロット(機長)の制服を失敬して変装した。そのまま、操縦業務を終えたばかりの機長の振りをして、空港を離れた。そして、コンヴィニエンスストアで買い物をした。
そのとき、店の棚にある日刊紙のヘッドラインが「アメリカ議会がCIAの査問を開始。コリンズ氏は議会に召喚される予定」とすっぱ抜いているのを目撃した。ということは、切羽詰まっているコリンズとしては、ジャハールの育成と暗殺に関するあらゆる証拠や証人を消し去るしかないだろう。ジェイムズは、いくつもの執拗な罠と駆け引きが待ち構えていることを覚悟した。