第9地区 目次
地球人類とエイリアン
見どころ
ヨハネスブルクのエイリアン
エイリアンの惨めな生活
エンジニア父子
ウィクスの悲劇
三つ巴の戦い
花を愛するエイリアン
エイリアンは人類像の投影
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サンジャックへの道
阿弥陀堂だより
アバウト・ア・ボーイ
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信州まちあるき

エイリアンの惨めな生活

  エイリアンたちは、最貧の黒人層さえも避けるような最貧困街区の郊外の荒れ地に廃物の板きれなどで小屋をつくって住居にし、捨てられた廃棄物=ゴミの山のなかから目ぼしいを漁り、たとえば金属空き缶やガラス瓶を売って生活費を得たり、生活用具として再利用していた。
  これは、アフリカなど人類の貧困地域で今でもよく見られる光景で、そういう状況にエイリアンたちが追い込まれているわけだ。しかも、彼らの生活水準は、黒人の最貧困層よりも下だった。
  彼ら生活は総じて荒んでいて、希望や向上心がもたらされる機会はあまりなかった。そのため、憂さを紛らすために、地球人類にとってのアルコール――と同じように酩酊状態をもたらす――飲料に依存して飲んだくれている者も多かった。

  とはいえ、彼らのなかには、日々の生活の糧を得るために、廃棄物を材料として利用した製品を生産する手工業を営んだり、仲間相手の商売(小商い)を試みる者たちもいた。
  そういう苦しい立場の彼らをさらに搾取するのが人類だった。
  最たるものは、黒人ギャング組織だった。とはいえ、暴力に訴えるわけではない。経済的=商業的な論理を駆使して、つまり商品交換の論理を利用してエイリアンからなけなしの資源を絞り取ろうというのだ。
  エイリアンたちはあまりに理知的であるせいか、そういうハイテク製品を人類に高く売りつけて儲けようという発想は浮かばないようだ。
  なかでもエイリアンの好物は「猫餌の缶詰」――脂肪たっぷりの肉や魚肉を煮詰めた食糧――だった。そのほかに酩酊飲料(アルコール)。エイリアンたちは、そういう好物を得るために、ギャング団の言い値で買い取るしかなかった。
  黒人ギャング団「オバサンジョ団」はそういう商品を大量に安くし仕入れてきて、エイリアンの居住区で暴利を付加し、値段を釣り上げて販売する。代金として彼らは、エイリアンが持っている兵器などのハイテク製品を求めた。


  ギャング団の狙いは、地球人類のものとは桁違いの破壊力を持つ、エイリアンの兵器を手に入れることのようだ。
  だが、兵器はものすごく高度な生体認証テクノロジーが組み込まれていて、エイリアンと同じ遺伝子組成を持つ生物しか運用することができないようになっている。エイリアンとは身体の化学組成が異なる地球人類はまったく兵器を使うことができないのだ。
  この点にもエイリアンの高度な知性と理性が反映されている。つまり、生体認証を経ないと破壊や殺戮につながる兵器の使用が認められないようになっているのだ。

  ともあれ、そういうようなわけで、猫缶や「酒」を手に入れるために、エイリアンたちは手持ちの資産を切り売りして、ますます貧しくなっていく。ギャング団は、エイリアンの貧困化を加速しているのだ。
  この様子は、現在の人類の経済格差構造を皮肉っている。途上諸国の人びと――ことに政府やエリート――は、先進諸国が提供する財貨やサーヴィスを手に入れるために、先進諸国の金融機関や多国籍企業の言いなりになって経済のモノカルチャー化を進めて、さらに債務を累積させて貧困化する仕組みにはまり込んでいることも多いのだ。

  それにしても、巨大な宇宙船や破壊力抜群の兵器を振り回せば簡単に人類と地球を支配征圧できそうなのに、彼らは人類から押し付けられた惨めな地位を受け入れているのだ。その意味では、すこぶる平和を愛する高度な知性と規範意識を備えているともいえる。

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