そんなときにヤーコブ牧師が帰宅した。
ヤーコブは正常に戻ったように見えた。
そんなところに、郵便配達人がやって来て戸外から声をかけた。レイラが急いでドアから出て、届いた手紙を受け取った振りをした。配達人は、手紙の代わりに雑誌をレイラの手に持たせて帰っていった。何枚もの紙の音――厚みのある紙の束のような音――をさせるためなのか、それとも、その雑誌のなかからレイラが手紙の話をつくるようにするためか。
すると、ヤーコブは、牧師館の裏手にある中庭のテイブルで手紙を読んで返事を書こうと告げた。そして、机から過去の手紙のうちから何通かを取り出して手にした。
中庭の椅子に座ると、ヤーコブ牧師はレイラに「さあ、今日来た手紙を読んでくれないか」と頼んだ。
レイラは手紙の中身として話をつくろうとしたが、なかなかできなかった。
それでも、差出人からヤーコブ牧師への挨拶を声に出した。しかし、しばらくのあいだ、そのあとが続かなかった。やがて、意を決したようにレイラは語り始めた。
「私は、人を殺してしまいました。
私には姉がいて、幼い頃から暴力的な父親から私をかばってくれました。そのため、ひどい虐待を受けたこともありました。
やがて、その姉が結婚したのですが、その夫もまた気に障ると妻にひどい暴力を加える人でなしでした。
ある日、姉が身体じゅうにひどい傷を受けているのを見ました。
私は、憤って、夢中で姉の夫に飛びかかりました。揉み合っているうちに、彼を殺してしまいました。
姉を思ってのことでしたが、結局私は、愛する姉から夫を奪ってしました。
私はひどい人間です……」
ここまで来てレイラは泣き崩れてしまい、語り続けることができなくなった。
間をおいて、ヤーコブ神父が語りかけてきた。
「それは、あなたのことですね。
あなたは殺人の罪で終身服役することになった。そのあなたを釈放するように嘆願する手立てを取ったのが私だということは知っていますね。
ですが、あなたの恩赦を求める嘆願をしてくれと頼んできたのは、あなたのお姉さんなのです。嘆願の手紙の中味はあなたのお姉さんが書いたものです。
彼女は毎年、私のもとに同じ願いの手紙を書き続けてくれました。何年も、何年も……」
といって、手紙と束を差し出した。 「そういうわけで、私はあなたのために恩赦の嘆願手続きを取ったのです」
レイラは姉の手紙を手に取って、文面を読んだ。そして、呆然とした。
「私は見捨てられていなかった。姉はずっと気にかけていてくれた」
レイラは涙を流し続けた。