原作 : 天藤 真 『大誘拐』 (創元社文庫)
見どころ:
誘拐された大富豪のおばあちゃんの活躍と心意気。岡本喜八の作品のなかでも上品なユーモアとウィットに富む傑作。世の中への大らかで静かな、それでいて力強いメッセイジが横たわっている。
とりわけ、おばあちゃんの「お国」に対する批判精神――お国って何だろう――が光る。誰かの子どもたちを戦場に送り込み、敵軍による空爆を呼び込んで多数の住民の命を奪わしめ、税による統制を続ける・・・。無謀な戦争政策で人びとを戦場に駆り立てる強制力をもち、人びとの生命や財産への支配権をもち、官僚たちによって牛耳られている国家とは何か。その問いが重い。
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刑期を終えて出所した3人の若者が、4万ヘクタールの山林資産をもつ紀州の大富豪のおばあちゃん(刀自)を誘拐した。
家族と警察に届けられた手紙に書かれた身代金の要求額は100億円。金額を言い出したのは、誘拐されたおばあちゃん自身。
ひょんなことから、3人グループに「虹の童子」という暗号名をつけてやり、誘拐劇の参謀長となったのだ。
誘拐事件捜査の陣頭に立ったのは、和歌山県警の本部長、井狩大五郎。おばあちゃんには海よりも深い恩義を感じている、智謀に長けた熱血漢の警察官。
井狩は、誘拐犯の法外な要求額を逆手にとって、これまた突飛な要求を「虹の童子」に突きつけた。元気な刀自の声または姿を生中継で示せというのだ。
「童子」たちの知恵袋となった刀自は、奇抜な作戦で警察の包囲網を出し抜く方法を次々と発案していく。
おばあちゃんと虹の童子は、100億円の受け渡しと刀自の返還への作戦を展開する。
予想外の展開の末、100億円と引き換えに刀自は無事戻された。
事件から1か月後、井狩は事件の真相の一端をつかみ、刀自に会いに来た。「なぜ誘拐事件を乗っ取って首謀したのか」を問うために。
井狩の問いを受けて、おばあちゃんは、山のなかでの3人組との偶然の出会いを回想した。
「家の財産は、私が死んだらほとんどお国に取られるのだ。それなら、お国に一泡ふかしたろ。むしるだけむしったろ」と心躍る日々だった、と。
あれからの2週間の冒険は、命のかぎり精一杯生きた「メルヘン」だったのだ。
一方、100億円を手に入れた3人は、取り分をめぐってケンカした。奪い合いではない。金の押し付け合いだった。
3人は、この2週間の冒険と刀自の生き様から大事なものを学んだ。
そして、それぞれに独り立ちへの挑戦が始まった。
知恵と策謀を戦わせる誘拐事件のゆくえを描いた岡本喜八監督の傑作。
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