原題 Kiss the Girls and Make them Die
意味は「若い女性にキスしたら殺すことになる」
ある朝、30代半ばの美貌の女性ペイギー・バートレットが住居のアパートメントの部屋で頭部を凶器で殴られて重体になっている状態で発見された。
事件は真夜中に起きたようだ。発見者は、女性の元夫ネッド・ルーミスで、離婚した妻と暮らす幼い息子に会いにいって被害者を発見した。
ペイギーは病院の集中治療室での救命治療のかいもなく、死亡した。
幼い息子は、部屋のどこかに隠れて事件を目撃したらしい。だが、ひどいショックで言葉が話せなくなっていた。
容疑者として浮かび上がったのは、ペイギーの「恋人たち」。
美貌の彼女には、何人ものボウイフレンドがいた。事件の捜査を担当するNYPDの刑事マックス・グリーヴィーとマイケル・ローガンがボウイフレンドたちを調べたところ、一番疑わしいのは、ネッドだった。
というのも、彼には女性暴行の前科があったからだ。
ペイギーの両親も元夫を疑って告訴した。
ニュウヨーク地区検事局は、殺人の容疑で訴追した。
だが、法廷での審理が始まってみると、新たな容疑者が浮かび上がった。
ペイギーに一番熱を上げていたイラン系移民の富裕な貿易商だった。マックスとマイケルが貿易商の周辺を調べていくと、貿易商の妻の方に容疑が向くようになった。というのは、事件の夜、彼女は夫の浮気に焦燥を抱いていて、ペイギーの住居に押しかけて夫と別れるよう迫ったからだ。
妻の行動を知った貿易商は、妻の後を追いかけてペイギーのアパートメントの部屋に来てみると、すでに妻はいなかった。だが、頭部を凶器で殴られて昏倒しているペイギーを発見して、妻の犯行だと判断した。そこで、ペイギーの横に落ちていた大きな金属の花瓶を持ち去り、ペイギーの陰部をブランディーで拭った。それは、性交の跡を隠す手段で、あたかもペイギーが強姦されて殺されたように見せかけるためだった。
そのような隠蔽工作のため、ネッドが最有力の容疑者になったのだった。
とはいえ、この話(隠蔽工作)は貿易商の証言だけのもので、客観的な証拠は金属の花瓶だけだった。しかも、花瓶はきれいに拭ってあって、指紋は検出されなかった。
警察および検察としては、言葉を失った幼い息子に目撃したことを語らせるしかないという判断になった。そこで、精神科医や心理カウンセラーの助言を受けながら、幼児から証言を引き出すことになった。
子ども好きのマックス警部は、すぐに幼児と心を通わせて、話ができるようになった。
だが、子どもの口から語られた証言は、意外な真相だった。
彼は母親に虐待されていたのだ。
男たちとの情事にのめり込んでいる美貌の母親は、夜になると、無理やり早めに息子に食事を取らせるとベッドに追い込んで、外出するのが日課になっていた。
だが、母親の愛情を求める息子は、このところ「反抗」をするようになった。食事を嫌がったり、就寝を拒むようになった。
だが、早くボウイフレンドに会いにいきたい母親は、力づくで無理やり息子に食事や就寝を押しつけるようになった。ときには、殴ったり折檻するようになった。
事件の夜、ペイギーは貿易商とのデイトに遅れないようにするために、息子に食事を迫ったが、息子はひどく嫌がった。母親はいきり立ち、息子をひどく殴りつけた。
その夜は、ペイギーは異様な興奮状態で、逃げ回る息子を追いかけて殴り続けようとした。怯えた息子は、身を守るために、寄りかかったテイブルの上の花瓶をつかんで夢中で振り回した。運悪く、花瓶はかがみ込んで拳を振るおうとしたペイギーの側頭部を直撃した。
というのが事件の真相だった。
イラン系貿易商が語った偽装工作は、ペイギーの死亡直後のものだった。
別れた夫を疑って告訴し、娘、ペイギーの無念を晴らそうとした両親だったが、真相を知って愕然とした。だが、彼らには思い当たる節があった。ペイギーは外見を飾り立てたがる見栄っ張りで、そうなると周りが見えなくなる性格だったのだ。
事件後、幼い息子を引き取って面倒を見ていたネッドは、落ち込んだペイギーの両親を息子と一緒の夕食に誘った。ひどい衝撃を受けた幼い子どものために、父親と祖父母が和解しようとしていたのだ。
以上の物語からすると、原題「女性にキスすると死を招く」が示唆する含意はどういうものになるのか。確信はないが、たぶん……ペイギーはイラン系貿易商との恋愛・情事にのめり込みすぎて視野が狭くなり、幼い息子を虐待するようになり、その結果、幼児の自己防衛によって死ぬことになった経緯を意味しているのだろう。
ただし、make one die (dying) は、「人を正気を失うほどに夢中にさせる」という意味もあるので、情事にのめり込み幼子を虐待するまでになったことと、それが原因で死んだことを懸けたのかもしれない。