原題 The Blue Wall
題名の意味は、そのまま訳せば「青い壁」。だが、ブルーには「陰気な」「憂鬱を帯びた」「重篤な」という意味があり、ウォールには「行く手を阻む防壁・障碍」という意味がある。ここでは、「疑惑の解明を阻む陰鬱で重苦しい障壁」ということになるだろう。
それというのも、この物語はNYPD組織内部の腐敗・汚職を扱った作品で、組織的な内部監察捜査の妨害があるからだ。
小説や映画などでもよく描かれるように、ニュウヨーク市警察ではアイリッシュ移民系の子孫が多数派を占めているという。だから、警察関係の行事やパレイドでは、濃緑色(または紫色)の地にアイリッシュハープをあしらったアイアランドの国旗――というよりもアイリッシュの民族旗――を掲げる参加者が多い。
ということは、警察内の人事・派閥闘争にアイリッシュ系コミュニティの利害や人脈が持ち込まれることもまた多くなるということらしい。警察組織内部の腐敗や汚職もまた、そうした利害や人脈に沿って発生することにもなる。
違法送金とマニーローンダリングの罪で訴追された市内のある銀行の経営陣は、検察側の証拠不十分で「無罪」評決を勝ち取った。銀行の犯罪を証明するはずの取引記録が保存されていたCDのメモリーが破壊・消去されたためだった。
そのCDは、捜査当局による押収ののち、法廷に提出されるまで、NYPDの証拠保管室に置かれていた。
ということは、警察内部の人物によって証拠(CD)が改竄隠滅されたということになる。
警察内部の犯罪としてNYPDの内部監察課が調査を開始した。
疑いの目を向けられたのは、マックスとマイケルの上司で捜査課長のドナルド・クレイガン警部と市警幹部(刑事局長)のピーター・オファレルだった。
2人のどちらか、ないしは双方共謀して、銀行から何らかの贈賄を受けて証拠隠滅をおこなったというのが、内部監察課の捜査官ケネディの観測だった。
一方、地区検事局としては、銀行の捜査を指導し地道な証拠集めを指揮してきたクレイガン警部には、これまでのところ容疑の目を向けていなかった。
ところが、クレイガンは保管されていた証拠が破壊された件について一切の弁明や釈明をしていない。しかも、証拠隠滅工作がおこなわれたと見られる週には、クレイガンは2度も証拠保管室に立ち入っている。そのことについての説明もしない。
クレイガンは何かを知っていながら秘匿している、いや誰かをかばっている。
という判断で、検事局のベンはマックス刑事とマイケル刑事に、内部監察課とは別に、隠滅事件と警察内部の動きを捜査するように指揮した。
マックスとマイケルもまたアイリッシュ家系の出身者で、クレイガンの立場を理解していた。
クレイガンはもう1人の容疑者オファレルと同じ街区の出身で幼なじみだった。警察では親しい先輩後輩かつ同僚の関係だった。やがて警察官僚としての出世コースに乗ったオファレルは、かつて刑事だった頃にクレイガンの相棒だったこともある。だから、オファレルをかばっているのではないか、というのだ。