原題 The Reaper's Helper
意味は「最後のひと押しを手助けする者」。
リーパーとは作本の収穫作業者や刈取作業者を意味する。原題は、直接には「穀物の刈入・収穫を手伝う者」という意味になるが、ここでは「最後の仕上げを手伝う者」という意味で使われている。
建設労働者の若者ロバート(ボビー)・ホランドの死体が住居の寝室で発見された。頭部を銃で撃ち抜かれていた。銃はボビーの所有物で、着衣に乱れはなく、室内には争った跡はなかった。強盗や謀殺ではなさそうだ。
一見自殺に見えるが、しかしボビーの手や着衣からは、コルダイト火薬燃焼反応はなかった。つまり、彼は自分で銃を撃ったわけではなかった。
NYPDのマックスとマイクは不審死の捜査を開始した。すると、ボビーがゲイ(同性愛者)であることが判明した。そして、HIV(エイズ)患者で、最近病状が急速に悪化して苦痛に悩まされていることもわかった。
ボビーの両親のうち、母親は殺人罪での告訴を望んだ――告訴は殺人としての犯罪捜査の要求であって、司法警察は告訴を受理すると刑事犯罪として捜査を開始するから。だが、父親は告訴を拒んだ。というのは、先頃、HIVの病状が悪化した息子から銃を渡され「自殺したいが勇気がない。銃で撃ってくれ。これ以上苦痛には耐えられない」と涙ながらに訴えられたからだ。ボビー自身は引き金を引かなかったにしろ、自殺の意思は明白だからだ。
マックスとマイケルは雑誌記事で、似たような自殺幇助事件がカリフォーニア州でも2件連続していることを知った。1件はサンフランシスコ、もう1件はロスアンジェルスで、両方ともにゲイでHIV末期患者の自殺を同一人物が幇助したものだという。
自殺幇助をしたのは、ジャック・カリーという青年で、彼はゲイでHIV患者の相互援助団体に属していた。その団体は、苦痛がひどいHIV末期症状の会員の尊厳死を助け合う組織だった。
マックスとマイケルはジャック・カリーを逮捕した。カリーはボビーの銃撃への関与を認めた。
地区検事局の主任検事補( EADA )のベン・ストウンは地区検事( DA )アダム・シフの指揮を受けて、ジャック・カリーを第1級殺人罪で訴追した。自殺幇助の罪ではなかった。検察としては、末期患者の自殺幇助が増加する傾向を抑えるために、カリーに罪科を問うのは過酷だと知りながら、あえて提訴した。
ボビーは自分では銃を持つこともできず、ジャック・カリーが銃を持ち引き金を引いたから、ということが訴因だった。司法当局としては、自殺幇助に見せかけた殺人事件の増加にも神経を尖らせていたため、今後、この種の事件の発生を抑制するために、このような扱いにしたらしい。地区の首席検事が政治的任用となるため、刑事政策という要因があれこれの控訴の扱いに直接に影響することがあるのだ。
だが、法廷での審理が進み事件の状況と背景、経緯が判明するにしたがってメディアと市民の多数派の世論は、カリーを殺人罪に問うのは理不尽だという傾向を強めた。ベンも同じ考えになっていった。
そこで検事局は、水面下ではNYPDの協力でカリーの訴追を取り下げる理由を探しまくったが、そんな事情は出てこなかった。
折しも法廷でボビーの父親は、ボビーを一定の条件下で病院での尊厳死――無痛致死薬物の投与――を認めているロンドンに行かせようと説得したが、病状が急速に悪化して無理になったことを証言した。しかも、検察側が、訴追取り下げの理由を探しているという裏事情がメディアに漏れてしまった。ボビーにとっては尊厳死が危急の要求だったことが確認されたのだ。
陪審員団は、ここにおよんで、カリーの無罪を評決した。
検察側の敗北である。しかし、ベンやアダムは、むしろ安堵した表情で法廷をあとにした。訴訟としては敗訴だが、「これでよかった」と
ジャック・カリーの弁護士――尊厳死を専門とするやり手の女性弁護士――は、ベンたちを追いかけてきて問いかけた。
「検事局が殺人罪で起訴したものの、実はカリーの提訴取り下げの事由を探しているという裏事情を新聞にリークしたのは、ベン、あなたでしょう?」
何と、ジャックの無罪判決のために世論を誘導したのは検事局だったのだ。
さて題名についてだが、「最後の仕上げのためのひと押し」をした者とは、銃を用いてボビーの尊厳死をもたらしたジャック・カリーを指すものだが、法廷で彼の無罪判決をもたらすために世論を動かした検事局をも暗喩するともいえる。アメリカのドラマ題名の設定は洒落ていて捻りが効いている!