タワーリングインフェルノ 目次
原題
見どころ
あらすじ
言語の薀蓄
空からの登場
見栄え優先の手抜き工事
交錯する人生模様
火災発覚!
炎との戦い
聳え立つ地獄の業火
阿鼻叫喚、続出する犠牲者
起死回生の鎮火作戦
結   末
高層建築という特異な存在
工法や材質
テロによるWTCビル崩壊
タウワリング

見栄え優先の手抜き工事

  じつはこの日の夕刻から、この超高層ビルの最上階で竣工式典が催されることになっていた。サンフランシスコ市長夫妻や連邦上院議員やら映画スターとかテレヴィタレント、地元の名士たち300人以上を呼び集めていたのだ。
  ところが、このイヴェントの日程は、建設工事の実際の進捗具合には無関係に、いわばワンマン社長ダンカンの顕示欲の独り歩きで決められてしまった。そこで、ビルの外観や外装はいかにも完成したかのようになっているが、いたるところで実質的な未完成のままで、当然、完了してないから、品質検査、強度・安全検査が後回しになっていた。
  なかでも一番ひどいのは、自動消火・防災システムがまだ作動できない状態にあることだった。
  さらにひどいのは、建築資材や電気系統の材料の品質・安全率が、これよりずっと小さなビルを想定した旧式の建築基準を満たす程度の低い水準に、切り下げられていた。つまり、施工図は、当初にロバーツがつくった原案からすっかり描き変えられていた。
  そのほか、外来客からは目につかない部分は手つかずで、非常階段や避難経路などに資材が放置されていた。

  ところが、グラスタウワーの玄関やロビイでは華やかな飾りつけが始まっていた。壮大な竣工式典を見物しようという人びとも集まり始めた。
  ビルの中央管理室では、試験運転のために専用の変電機を起動させようとした。だが、主変電機は機能しなかった。そこで予備変電機に切り替えて建物の主要回路に電力を供給しようとした。すると、制御用の配電盤のなかで火花が飛び散り、煙が立ち込めた。
  管理員たちは、ただちに電力供給を止めて、配電盤の内部を調べたところ、過電流によってブレイカーが溶融していた。主回路の材料の品質が当初の設計よりも格段に落とされていて、導体の口径も小さくされ、被覆官のないものになっていた。そのために、容量オーヴァーになったのだ。
  電気導体は断面積が小さくなるのに反比例して電気抵抗は増大し、したがって発熱量が増大し、許容電流は小さくなる。つまり漏電火災の危険性が飛躍的に高まるわけだ。

  事故への対応で呼び出されたロバーツは、施工図が当初の設計図から変更されていることを知った。ビル全体の配電回路がそうだった。
  危険を察知したロバーツは、社長室に出向いて、今夕の式典の延期を訴えたが、跳ねつけられた。
  だが、すでに災害は始まっていた。
  81階の倉庫の電気系統配線がショート・加熱して火を噴き、周囲の可燃物にしだいに燃え広がっていたのだ。ところが、熱や煙感知警報装置ははたらかなかった。この装置体系を動かす電力が、遮断されていたからだ。そして、自動消火装置はまだ機能する段階にはなかった。
  この倉庫のなかで炎は成長していった。
  そのあいだに、ダンカン・エンジニアリングの力量をひけらかすための式典の準備は進められていった。恐ろしい危機がすぐそこまで迫っているのに気づかずに。

  ロバーツは同僚とともにグラスタウワーの設計図面類を調べた。施工図では、原設計にかなり大幅な修正――材質の格下げや危険回避のための装置の縮減、手がかかる工法・工事の省略など――が加えられていた。
  ロバーツの長期休暇のあいだにこのビルの建設工事を監理したのは、ダンカンの娘婿、ロジャー・シモンズだった。シモンズは、ダンカン・エンジニアリング企業グループ系列傘下にある建設会社(従属子会社アフィリエイト)を経営していた。
  それにしても、これほどひどい手抜きや品質劣化が進められていたとは…。ロバーツは、ロジャーを問い詰めてただちに補修工事を計画させるために、ロジャーの自宅に向かった。

  ダンカンの娘、パティーとロジャーは郊外の豪奢な邸宅に住んでいた。
  ところが、ロバーツが邸宅を訪れると、ロジャーは外出中だった。パティーが1人で、今夜の式典の支度を始めていた。
  2人が挨拶を交わしているところに、ロジャーが戻ってきた。
  ロバーツは、溶解した銅ケイブルをかざしながら、ロジャーを詰問した。
「私の設計では、もっと大きな口径の被服ケイブルを使用するはずだったのに。こんな品質を落とした材料を使うなんて。これで、いったい、自分の報酬のためにいくらピンはねしたんだ」と。
「非難を受けるいわれはない。材料はすべて建築基準を満たしている」とロジャーは反論。
「愚かな。そんな基準は、グラスタウワーよりもずっと小さなビルでの基準じゃないか。あの巨大な建物を運営するための電力の総容量と負荷を考えてみたのか。こんなものでは、いたるところでオーヴァーフロウ事故が発生するぞ」
  結局、ロバーツの詰問に対してロジャーは居直るだけで、水掛け論で終わった。
  救いようがないと、ロバーツはグラスタウワーに帰っていった。
  ロジャーとパティーもまた、パーティ用の正装に着替えて、グラスタウワーに向かった。

前のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済