集落の住民たち――この場面の映像に登場するのは男だけだが――はみんな落胆した。カーディフから出発して最初の山だったフュノンガルウが、単なる丘に格下げになってしまうのだ。一番深刻に悩んだのは、牧師のジョウンズだった。
彼は、この町の名誉と尊厳にかかわる問題だと位置づけて、治安判事などとともに住民集会を呼びかけた。集会場に集まった人びとを前に、ジョウンズは演説した。
この町の住民たちが誇りを持っていたフュノンガルウは「山」として公認されて公式の地図に載せられるべき基準を満たしていなかった。これは「ゆゆしき問題」だ。
こうなったら、イングランド人たちが仕切っている地理学会に嘆願を提出して、フュノンガルウを「山」として地図に記載してもらおう。そのための住民運動(請願)を組織しようと。
だが、この意見に異議を申し立てた者がいた。ジョウンズの不倶戴天の敵、モーガンだった。
「イングランド人に頭を下げて頼むなんて、そんな屈辱的なことはできない」と。
「だったら、フュノンガルウという「山」が地図から消え去ってもいいのか。この町の誇りを失っていいのか」とジョウンズは食い下がった。
判事が仲裁に入った。
「待てジョウンズ。とにかく、ここはモーガンに意見を全部言わせよう」と取りなした。
モーガンは言う。「1000フィート必要なら、頂上に土を積み上げて1000フィートにすればいいじゃあないか」
ジョウンズは反論した。 「神がつくったものに人が手を加えて、インチキをするのか。神への冒涜だ」
……と言い始めたが、その場で考えを変えていった。
「…だが、もし土を積み上げるなら、君たちの家の土を積み上げるべきだ。…いや、町の全員が土を運び上げて積むなら、神もお許しなるだろう。そうだ、全員で頂上を高く積み上げよう」
大地をつくりたもうた神のご意思よりも、住民全体の誇りや名誉の方が優先されるべきだ。住民の総意ならば神も譲歩するだろうという、まことに御都合主義的な発想なのだが、イングランド国教会の教義と組織運営の原則は、その発足当初から御都合主義だったから、教会の原理に反するわけではないだろう。
モーガンの提案はジョウンズ牧師によって修正され、町の方針になった。住民全員が参加してフュノンガルウの頂上に土を積み上げて、標高を嵩上げし、「山」としての基準を満足させようということになった。