一方フュノンガルウでは、ジョウンズ牧師の指揮のもとで、町の住民全員がフュノンガルウの頂上に運ぶ作業が始まった。
住民はそれぞれにバケット(木製・金属製)や取っ手つきの手桶、あるいは荷馬車、トレイつき一輪車などを持ち寄って、集落の近辺の野原から土を採取し、「山頂」への長い道を登った。山の高さや道の傾斜から見て、道のりは2マイルはありそうだ。
その道を密集して、あるいは数メートルごと間隔の列をなして、ひっきりなしに人びとが行き来する。参加者の数は数百人におよぶかもしれない。町の住民総出の大仕事だ。
何しろ、頂を6メートルも嵩上げするのは、盛り土が崩れず安定するほどの底面積の広さに土を盛るのだからものすごく大変な仕事だ。しかも頂上まで2マイルの上り坂を登って土砂を運ぶのだから。
したたかなモーガンは、中腹でビール販売の屋台を設け、喉を潤そうとする男たちにビールを売りつけて小銭を稼いでいた。もちろん、土地運びの肉体労働をするわけがない。どこまでも抜け目がない男である。
さて他方、ガラードとアンスンは、ウィリアムの工場ガラージュまで、故障した車を押していった。太り過ぎで日頃運動不足のガラードは、これですっかり消耗してしまった。
2人が宿に戻ってみると、宿の正面にウェイルズの旗を掲揚していたポールがなくなっていた。
アンスンが「ポールがなくなっているのはなぜか」とモーガンに尋ねたところ、「乾燥して倒壊してしまった」という答えが返ってきた。
このポールの高さ(長さ)は約20フィートあった。ちょうど、フュノンガルウの標高が、「山」の基準である1000フィートに足りない分にほぼ等しかった。
というわけで、掲揚ポールは未明のうちに外され、フュノンガルウの頂上に移しかえられていたのだ。つまり、どれくらい土の盛ればいいかを示す尺度になったというわけだ。今、ポールには2フィートごとにペイントの短い線が描かれていて、高さを示す「目盛り」、言い換えれば嵩上げ作業の進捗度を計る目盛になっていた。