大誘拐  目次
見どころ
あらすじ
3人の「虹の童子」
おばあちゃん
おばあちゃんの山歩き
誘拐決行
おばあちゃん、3人の人柄を見抜く
驚きの隠れ家
刀自とクーちゃん
クーちゃんの心配
さて翌朝・・・
刀自とクーちゃん
さて翌朝・・・
乗っ取られた誘拐…身代金100億円
県警本部長、井狩
井狩の痛烈な反撃
虹の童子の反撃
警察の追跡網
奇襲作戦
刀自、テレビ中継に登場
山林資産の洗い直し
兄弟姉妹の結束
空のかなたに消えた100億円
刀自の帰還
井狩、刀自を訪なう
井狩、刀自に問いかける
おばあちゃん、「お国」に挑む
刀自の算段
3人の童子の旅立ち
正義の決断
平太の決意
健次の道
作品の奥にあるもの
天本英世のこと

おばあちゃん、「お国」に挑む

  「でも、なぜなんです?」井狩は問いかけました。

  きっかけは、体重計の目盛りでした。夏のある日、風呂上りに測った刀自(おばあちゃん)の体重は、少し前と比べて9kgも減っていたのです。
  「ガンや」。先頃、葬式に行った先の老人もガンで死んだのです。
  倒れる直前、10kgも体重が減ったといいます。
  「私の命もあとわずかで消える」と思うと、衝撃でへたり込みました。

  刀自は、窓を開けて外を見ました。
  美しい山並みと豊かな緑がありました。「なんとお山は美しいんやろ。けど、やがてまもなく、このお山もお国ものになってしまうんか」
  これは、本当は刀自の思い違いでした。たまたま夏痩せがひどかっただけだったのです。

  刀自は人生を振り返ってみました。痛恨は、3人の子どもを戦争で奪われたことでした。国家がそれを強いたのです。
  「愛一郎を奪い、静江を奪い、さらに定義まで奪った。それでも足らんと、こんどはお山さえ奪おうとする『お国』。では、そないな『お国』というものにかけがえのないものを奪われ続けた私の人生って、いったいなんやったんや?」
  美しいお山は、地元紀州の山人、村人が長い長い苦心の末に生み出した宝だ。とりわけ、戦争の荒廃から立ち上がるために、民衆が耐えた労苦のたまものだ。それを、お国が取り上げてしまう・・・。

  取り上げて民衆に分け与えるなら、まだしも。国有財産、公有財産は、政治家と上級官僚(お役人)が結託して、いいように動かし、使い回すだろう。
  彼らは「公益」や権力を盾に利権や既得権益の聖域や障壁をつくり出し、癒着し、権威にまつろう者、利権の腐臭に呼び寄せられ群がる者どもに食い荒らされるのが、常則ではないか。

  そんな悩み(虚脱感)に沈みかけたとき、あの者らが現れたのです。
  よし、燃えつきかけた命のかぎり、お国に一泡ふかしてやろう。
  これを機会に、お国からむしるだけむしったろ、と決意したのです。

■刀自の算段■

  「それにしても、100億円とはなんですか」と、刀自の回想を断ち切るように井狩が問い詰めました。
  ところが刀自は、「世間では、あのことで、柳川家は大損害や、と思うていますんやろな」と言い出しました。
  「何をおっしゃりたいんですか?」
  「そら、損害は損害やが、世間が思うとるほどではないんです…柳川家にとって、実質の損害は100億の3分の1いうところですかいな」と、

  説明を始めた刀自によると、
  子どもらの実質的な負担は36億、あとの64億は「ほかにどこからも出所がないさかい、お国からということになりますかいなあ」
  要するに、贈与税の課税対象資産の査定にあたって、突発的な災害や突然の経済的事変、あるいは雑損失の控除分として、この奪われた身代金について「お目こぼし分」が認められました。
  それで、60億円あまりの納税額の差し引きがあったのです。
  それは、いわば後からの資産のやりくりとして身代金に算入したと見なすことができるというわけです。

  「ああ、それで100億円という数字が必要やたんですな。どうせ(相続税か贈与税として)税金は国に取られるものなら、少し国に吐き出させてやろう、と」井狩は感心します。

前のページへ | 次のページへ |

総合サイトマップ

ジャンル
映像表現の方法
異端の挑戦
現代アメリカ社会
現代ヨーロッパ社会
ヨーロッパの歴史
アメリカの歴史
戦争史・軍事史
アジア/アフリカ
現代日本社会
日本の歴史と社会
ラテンアメリカ
地球環境と人類文明
芸術と社会
生物史・生命
人生についての省察
世界経済