都市の地表には植物などの自然は全く見られず、ビル街に覆われている。地球の気候は大きく変動し、初冬のロスアンジェルスには強い雨が降り続いている。
その雨のなか、デッカードはウドンを食べていた。
そこに、ロス市警のホバー・パトカーが降り立ち、警官がデッカードのところにやって来た。デッカードを警視のブライアントのところに連れていくためだ。
警視のオフィスにたどり着いたデッカードを待っていたのは、ブライアントの高圧的で脅迫的な命令だった。
ネクサス6型レプリカントが反乱を起こし、その首謀者たちが植民惑星から逃げ出し地球に到達し、ロスに潜入した。ただちに、レプリカントの捜査・識別活動を開始し、彼らを抹殺せよ。そういう命令だった。
ブレイドランナーの仕事にうんざりしていたデッカードは、言を左右して任務を回避しようとするが、ブライアントは任務を強引に押し付けてきた。デッカードは拒否できなかった。
捜査の手始めは、レプリカントの製造者、タイレル社の社長の訪問だった。社長室でデッカードを迎えたのは、タイレルの姪で黒髪の美女、レイチェルだった。
ところで、その部屋には、レプリカントのフクロウが羽ばたいていた。フクロウは、人類の知恵と知性の象徴だ。
ローマ神話の「ミネルヴァのフクロウ」は夕暮れになると羽をはばたかせ飛翔する。それは、人(文明)が知性や英知を獲得するのは人生の盛りを過ぎた晩年近くだという人生(文明史)の皮肉を物語っているようだ。
さて、そのフクロウのオレンジ色の瞳は、デッカードを見つめていた。
デッカードはタイレル社長(化学の博士)にネクサス6型レプリカントが反乱を起こして地球に侵入したこと、彼らの目的はタイレル社に侵入して、寿命を延ばす方法を知るためだと告げた。
社長は、レプリカントの寿命がわずか4年間になってしまったのは、体細胞に組み込んだ遺伝子プログラムの欠陥で、現状の技術の限界なのだと説明した。新陳代謝のプログラムにエラーが生じて、免疫機能を失いウィルスに侵されて麻痺が始まり、死にいたるのだと。
…とにかく社長との会話の結果、デッカードは、外観が人類とまったく同じレプリカントを普通の人間から識別するためのテスト(これはブレイドランナーの仕事)をレイチェルに施すことになった。
このテストは、いろいろな物語や場面状況を被験者に示して、被験者が連想することがらを返答するというQ&A方式のもので、被験者の心的反応を考査するのが目的だ。
これは、人類がもつ共感性や感情移入(empathy)という心的能力をレプリカントが持っていないということで、レプリカントに固有の反応を確認し、識別するためのテストだ。
ところが、レプリカントの性能が高度化するにしたがって、このテストの信頼性が揺らいできていた。レプリカントが人間としての特有の感情・情緒をもつようになっていたからだ。
テストでレイチェルは、ある程度の共感性・感情移入を備えた反応を示したものの、やや反応速度が遅くなった。それは、人類としてのしかるべき反応を返すための思考・判断の時間分だけ遅れているのだ、とデッカードは判断した。
つまり、レイチェルは最新のネクサス6型(改良型)レプリカントなのだ。