大会当日の朝、退団しようとしていたあの2人のメンバーの妻たちは、グロリアという若い美女がメンバーに加わったことを噂で知り、夫たちの浮気を心配して、いっしょにバスに乗り込んできました。グロリアをセクハラ同然にからかっていた夫たちは、妻たちの登場に驚きました。
さて、映像に描かれたこの州レヴェルの地区大会は、かなりユニークなものです。町中が音楽祭になるのです。
ヨークシャー各地から集まった各楽団は、町の通りを行進しながらマーチを演奏するのです。まさにマーチ演奏にはピッタリのパフォーマンス方式です。そして、町の広場とか公園で各楽団があれこれの曲を演奏します――屋内での演奏もあるかもしれませんが、映像にはえがかれません。
各バンドの演奏を聴いた聴衆が、どこのバンドが優れていたかを採点評価して順位をつけるのかもしれません。この町だけの賞をもらえるのかも。
ところで、炭鉱閉鎖の瀬戸際にあるグリムリー・コリアリー楽団の心の動揺と落ち込みは、よりによってブラスバンドのイグジビション大会での演奏に現れました。とにかく、グリムリーは散々な結果でした。
メンバーの多くは、日頃のストレスから逃れるために、祭り気分で羽目をはずしてアルコールを飲みすぎたのです。酔って演奏して、うまくいくはずがありません。
そしてまた、とりわけフィルの演奏がひどいものでした。借金苦に苛まれたうえに妻との関係が危機にあるということから来る落ち込んだ精神状態もさることながら、トロンボーンの不調がいよいよ昂じてまともな音が出なくなってしまったのです。
グリムリー・コリアリーのバンド・ホールに戻ると、ダニーは落ち込んでいるメンバーを叱咤激励しました。
「こんなんじゃ、ハリファックスでの準決勝で勝ち残れないぞ。
炭坑はなくなるとしても、バンドは続けるんだ!」
ダニーの強さにグロリアは感激しました。けれども、ほかのメンバーは意気消沈していました。
ハリーがメンバーを代表してダニーに言い返しました。
「ハリファックスまでは演奏を続けるよ。でもな、炭坑が閉鎖になったら、そこでバンドはおしまいだよ」
その言葉は、まさにほとんどの楽団員の心境を表していました。演奏を支えるはずの楽団員たちの意思や活力は最悪の状態だったのです――これからやって来る生活苦を考えると、心が押しつぶされようでした。生活基盤を失うということでは、災害と変わりません。
フィルは、これほど悲惨な状況に直面した父親のダニーが心配で、ダニーの部屋を訪れました。無理を重ねていたダニーは血を吐いた直後でした。
ダニーは、父親を心配する息子フィルに、楽団の指揮者として忠告しました。
「どんなにうまくても、そのトロンボーンじゃだめだ。準決勝では勝てない、そんな音じゃ。
トロンボーンを買い換えた方がいい」
「だけど、生活費さえままならないんだ。無理だよ」
けれども、病状が悪化している父親のために、そして何よりもきちっと演奏したいという意欲と自分の尊厳のためにも、新しいトロンボーンを買い換えることにしました。