3つの物語「ユニバーサルソルジャー」「ソルジャー」「サイバーソルジャー」
しかし、ある日、家のなかに侵入した毒蛇に立ち向かう方法をネイサンに教えようとするトッドを見たメイスは、やはりトッドは平穏を好む自分たちと違う世界の、危険な人間だと判断して、トッドの追放に賛同した。
トッドとしては、幼児とはいえ、身に迫る危険に立ち向かい戦う方法を学ばなければならないと考えてのことだった。しかし、メイスや住民にとって、幼児は自立を学ぶ存在というよりも、まず保護の対象だった。
こうして、トッドは衣服と手回りの防具や食糧を与えられて、コロニーの外に追い立てられることになった。
トッドは、岩山の洞窟を出て、廃棄物の広野で暮らすことになった。トッドが居を定めた場所は、直径が4メートルくらいの巨大な金属の円筒のなかだった。そのなかで火をたいて夜を迎えたトッド。彼の両眼からは、なぜか涙が流れ落ちて止まらなかった。
コロニーの仲間から排除された悲しみ、あるいは孤独が理由だった。だが、そんな他者との絆への渇望や孤独を感じたのは、生まれてからはじめてのことだった。言葉や表象にはならなかったが、トッドの精神のなかに「心」は確実に育ってきていたのだ。
とはいえ、トッド本人には涙や精神状態の空洞感の意味や理由が理解できなかった。人間の心理や感情は言葉つまりカテゴリーによって意識化され、本能的意識を方向づけ形づくるものなのだろう。語りかけによる催眠効果は、まさに言葉=カテゴリーによって人間の心理や精神状態がコントロールされうるものであり、なおかつ潜在意識や記憶構造にも強い影響を与えるものであるということだ。
ところが、ある夜、メイスの住居に毒蛇が侵入した。夫妻が就寝しているベッドに這い上がってきた。鎌首をもたげた瞬間、ネイサンが蛇を捕まえて殺した。ネイサンはトッドの教えから、危険から逃げるばかりでなく立ち向かい、自分と家族を守る方法、必要なときには毅然と戦う勇気を学び取っていたのだ。
それを見たメイスは、そのことをネイサンに教えたのだと気がついた。メイスは直ちにトッドに会いに出かけた。