|
絵描き: 「宅急便」ではキキの成長物語でしたね。
キキは13歳までは、もって生まれた素質・才能だけで空を飛んでいた。
けれども、人間は成長のある段階で、だいたい思春期になると、素質によって無意識に習得した能力や生まれ持った才能を意識的に見直し、目的意識に沿って自覚的にコントロールしなければならない局面が来ますよね。
それはかなり辛い訓練で、地道な反復が必要だし、失敗の繰り返し、試行錯誤の壁に何度もぶつかることになります。
歴史家: あとから振り返れば、なんということはない、当たり前の挫折というか人生のよくあるレッスンの場なんだけれど、はじめてそれにぶつかる少女にとっては、それこそ、どうしていいかわからない。
けれど、そういう不安や焦りを忘れて夢中になると、苦しい努力や小さな失敗なんか気にせず、なんとか苦難を乗り切っていく。
あとになって、あれ、できちゃった、みたいにね。
読書家: そうそう、キキはトンボ少年を助けるために必死になります。
飛ぶことに対する不安なんか吹き飛んで、必死に箒を目的に向かって飛ばそう、コントロールしようとする。その必死な「無意識の目的意識」が彼女の壁を突破させてしまうんです。
歴史家: ラピュタはどうだろう。
絵描き: 「ナウシカ」とはまた別の角度から見た「文明論」みたいなところがあるよね。物語が面白いから、説教くさくないけれど。
読書家: シータは、かつて飛行石とテクノロジーの独占によって上空から地上を支配したラピュタ王国の王族の子孫。
それで、彼女のもつ秘密の石(ラピュタのありかを示す石)をねらって軍や特務機関が暗躍する。
彼女を捕らえて、ラピュタを探り当て財宝を奪い、あるいはテクノロジーを独占してふたたび世界を支配しようとする。
シータを守って、いっしょにその策謀をつぶすのがパズー少年。
絵描き: その昔、天空から地上を支配してたのですが、結局、ラピュタの権力というか支配は行き詰まります。ラピュタの王族は、地上に降りて普通の人びとに溶け込んで、木々や花や鳥や虫、動物とともに生きようとしたのですよね。
歴史家: 今のラピュタは美しい「静謐に満ちた廃墟」でした。人類亡き後の平穏ともいうべき静謐です。
つまり、力による支配から離脱して、地上の生態系・環境に適合した生き方を選び取ったということですかね。
読書家: 「千と千尋」は、人の心のなかの問題を扱っていたような気がします。
欲望や嫉妬心を抑えることとか、人を侮蔑しないとか。
歴史家: 私は風景の美しさなんかに惹かれて宮崎アニメを観るから、物語はよかったんだけど、「千と千尋」については強く心に残るものが少ないような気がします。
というよりも、それまでの作品づくりとは、かなり異なった視点で物語を構成するようになったように思えます。