ときとして人はあまりに辛い運命を受け入れられないときがある。とりわけ愛するパートナーを失うことが避けられないような場合には。しかし、悲惨な現実からの逃避は、むしろかけがえのない相手を傷つけてしまうことになることも多い。
だが、ふとしたきっかけでその相手との絆を回復する努力を始める意思や勇気が湧き出すときがある。あるいは、ほかにも悲惨な運命を背負って生きる誰かを知ったときに。
アメリカの地方鉄道の機関士とその「家族」の物語。鉄道オタク、鉄ちゃんにはおススメの作品(2007年)。
原題は Rail & Ties で、そのまま訳せば「軌条(線路)と枕木」あるいは「鉄道と絆」ということになるだろうか。
「タイズ」には「枕木」とか「絆」という意味がある。そこで、この題名は「線路と枕木」という風に理解すれば、分かちがたく結びついた関係、強い絆で結ばれた関係という意味合いかもしれない。これが一番映画の内容に合っていると思う。
だが、もっと即物的に「鉄道と絆」という風に取れば、鉄道や鉄道業に関連する人びとの絆という意味合いになる。これでも、映画の内容と合う。これは第2位候補としておこう。
前者だと、人びとの心や人生、人びとの関係性を線路と枕木に譬えていることになる。人びと心向きあるいは人生の軌道が近づき、出会い、強い絆で結ばれるという意味になるのではなかろうか。
後者でも、鉄道が3人の人物を結びつけることになっていて、それによってでき上がる絆というわけだから、やはり文脈はほぼ同じ――表現が事実的になるだけのことだ。
作品に登場する3人の主人公たちは、互いに引かれ合い、それぞれに1人がほかの2人の絆を結び合わせる役回りをしている。
人は悲惨な運命を余儀なくされたとき、どうしてもその現実を受け入れることができないことがある。
この映画で、ケヴィン・ベイコン扮する列車機関士、トム・スタークは、深く愛する妻メーガンが末期癌に侵されている事実を受け入れられない。辛すぎて、そばにいてやることもできない。メーガンは辛そうにしているトムを見たくない。夫婦の関係はぎくしゃくしていた。
ところがある日、線路に居座っていた自動車と衝突する事故を起こしてしまった。避けられない事故だった。アルコール依存症の女性が運転する車で、その女性は自殺を企てたのだ。事故の直後からトムは自宅謹慎となって、すっかり衰弱した妻と過ごすことになった。
そんなところに、列車との衝突で死んだ女性の息子デイヴィが現れて、トム、メーガン夫婦と一緒に暮らすことになった。
そんな日々のなかでトムはメーガンとの絆を再発見していくことになった。
メーガンの病状を知ったデイヴィはひどく動揺した。自分がついた嘘のせいで天罰が下ったんだ、と自分を責めた。トムはデイヴィを慰めた。だが、やがてメーガンは息を引き取った。
メーガンはトムに「デイヴィを私たちの子どもとして育ててほしい」という遺言を残した。トムは決心した。児童保護局に事実を申し出て、デイヴィを養子にしようと。本当の家族としての絆を確かなものにしようと。
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