さて閑話休題。ヘルシンキの昼間の陽の動きと白夜を理論的に体験してみよう。
季節は夏至の頃という状況設定だとして、天文学の話をしよう。白夜について、だ。
北極点や南極点では、白夜の季節には、太陽は地平線から仰角 23°くらい上をぐるぐる回り続けて、日没がない。ということは、日の出=夜明けもない。
では、北極圏に近いヘルシンキではどうか。
世界地図で見ると、ヘルシンキの緯度はほぼ「北緯 60°」。この場所で白夜というか、夏の太陽の見かけの動き(日周運動)はどう見えるか。
まず太陽の南中高度だが、次の計算式で求められる。
α:南中高度
β:緯度(ここでは北緯)
θ:太陽方向への地軸の傾き(公転面に立てた垂線との差)
α = 90°−(β−θ)=90°+ θ −β
つまり、南中高度=極点緯度−(その地点の緯度−地軸の傾き) ということになる。
ヘルシンキの場合は、
南中高度= 90°−( 60°− 23.6°)= 53.6° となる。
この算式は、暗記しなくても、簡単な幾何学で求めることができる。
まず地球の断面の形として円を描き、中心で直交する水平・垂直の線分を引く。水平の線分が太陽の赤道面となる。
次に、縁の中心を通る軸線を垂直線から 23.6°傾けて引く。これが地球の自転軸だ。この自転軸=線分と中心で直交する線分を引くと、この線分が地球の赤道面(地球の公転面)となる。地軸の傾いた分だけずれている。
そして、地球の赤道面から上に向かって測って中心角= 60°となる円周上の点をプロットすると、これがヘルシンキ(北緯60°)の地点となる。
この地点に、太陽の赤道面と平行な線分の左端をもってくると、これがヘルシンキに到達する太陽光線の角度、すなわち夏至の南中高度を示すことになる。ヘルシンキを示す点を通過する接線を引くと、この接線と太陽光線とがつくる角度が南中高度である。
以上のそれぞれの線分を伸ばして補助線とすると、いくつかの直角三角形ができる。相似図形もできる。
直角三角形の内角の関係(補角とか内角の和)とか平行線による同位角や対頂角などの関係を追っていくと、上記の算式が求められる。
こういう幾何学が嫌な人は、こう考えればいい。
まず地軸の傾きがなく、太陽の赤道と地球の赤道とが一致すると仮定する。
この場合、地球の赤道上、つまり緯度が 0°のところでは、太陽の南中高度は一年中いつも 90°となり、北極または南極では 0°となる。この場合には、地球上には季節(四季)の変化はなく、緯度によって年中夏の地帯と年中冬の地帯(その中間の地帯)があるだけということになる。
そうなると、ある地点の太陽の南中高度は、「 90°− 緯度」で算出できる。
ところが、実際には地軸は傾いているので、その分、夏至には南中高度が高くなり、冬至には低くなる。
だから、夏至の南中高度は「 90°− 緯度+ 23.6°」となる。冬至の高度は、23.6°を引けばいい。
というわけで、ヘルシンキの夏至の太陽南中高度は約 53°となる。
では、太陽高度が最も低くなって日没状態に一番近づくときにはどうなるか。
描いた図形で、ヘルシンキの位置を地軸を回転軸として回転対称の位置、つまり 180°反対側にプロットすればいい。地平線よりも 6.4°下になる。まあだいたい、地平線近くになるとしておこう。太陽の上端が沈むか沈まないかの境目あたりか。
その時刻は 24 時で、真夜中。つまり、「真夜中」でも日没直後以上の明るさを保っていることになる。
となると、太陽の見かけの日周運動としては、
真南の方向に 53°で、真北の方向に地平線近くとなる円を描いて、太陽は動くように見える。そうなると、夜の長さはほんの1時間前後しかないということになるだろう。かなり明るさが残る薄暮状態なので、暗い夜はなく、実質的には白夜状態だということだ。
体感的に表現すると、日本でいう真夜中の午前0時過ぎに真北近くから陽が昇り始め、真昼の南中高度は日本での半分ほどの高さに達し、その後西に陽が傾き始めて午後12時ごろに真北に日没するが、明るい薄暮の夜となる。日が没したと思う間に、薄暮は明るさを増して、すぐに日の出となる。
逆に冬至の頃には、太陽の南中高度は地平線上でプラス 6.4°となるので、冬の日の出は真昼のほんの少し前で、しかも太陽は全部は顔を出さないかもしれない。そして、すぐに日没となる。真昼でも明るめの薄暮となるだけで、すぐに暗くなってしまうだろう。