戦争の犬たち 目次
多国籍企業とアフリカの悲劇
物語と状況設定
原題について
原作と原作者について
  著者の経歴と問題意識
  商売としての傭兵
死にゆく者と生まれ出る者
  孤高の傭兵
投資コンサルタント
ザンガロの悲劇
戦争屋稼業の孤独
憤りと決意
  利権争奪戦の背景
「援軍」との合流
戦闘と大統領府攻撃
  新大統領
作品が提起する問題
  重苦しい現実
  悲劇の複合的な原因
  アフリカの近代
  アフリカの分割
  列強の覇権争奪戦
  独立後の現実
  冷戦という足枷
  従属と貧困の再生産
  開発援助の実態
  冷戦と傭兵

◆アフリカの分割◆

  アフリカの地図をご覧あれ。
  経線や緯線に沿って直線的に引かれた(あるいは斜めの直線で引かれた)国境線が縦横に走っている。
  ヨーロッパ諸国の軍事的・政治的・経済的な分割闘争、分捕り合戦によって、そのときどきの力関係に応じて、いわば域内の地理的環境とか部族の生活圏とか、内発的な理由でではなく、外在的な原因によって暴力的・人為的に確定された国境線であることは、一目瞭然だ!。

  つまりは、ヨーロッパ諸国家の闘争の結果決められた境界線に沿って、あれこれの部族や語族、集団が無理やりそれぞれの属領・植民地圏に寄せ集められ、囲い込まれたのだ。
  ヨーロッパでは、近代的国民(nation)が数世紀(およそ5世紀)におよぶ長い歴史的過程をつうじて形成された。戦争や闘争、駆け引きの結果として。国民とは、国家によって組織され統合され、やがて軍事的・政治的・文化的なまとまり=一体性(幻想の?)を獲得した集団単位で、近代に固有の特殊な社会制度だ。

  だが、アフリカには、そんな歴史的時間は与えられなかった。先ほど述べた直線的な国境線が、この間の事情を雄弁に物語っている。

◆ヨーロッパ列強の覇権争奪戦◆

  ところが、17世紀まで、アフリカ各地ではヨーロッパと比べて遜色のない豊かな原住民の生活が営まれていた。
  ことにインド洋岸沿いのアフリカ東部は、遥か昔からインド洋海運によって結ばれた「世界貿易」をつうじて、アラビア、ペルシア、インド、東南アジア、モーリシャスなどの諸地方と多様な特産物交易を繰り広げていた。
  インド洋は、緩やかな紐帯で結ばれたインターシステムないしインタークラスター・システムを形成していた。
  アフリカの熱帯産物や金、宝石、アラブの貴金属製品や果物、インド各地の洗練された木綿繊維、東南アジアの胡椒や香辛料など(これらは当時のヨーロッパで金よりも価格が高い贅沢品だった)が、取り引きされていた。

  しかし、16世紀にポルトガルの艦隊がインド洋に進出し、アラビア海やペルシア湾、インドの沿岸部を征圧し、古来からの航海や交易関係に介入し、破壊し、組み換えていった。
  続いて、インド洋東部にネーデルラント連合東インド会社の艦隊と商人たちが割り込み、ポルトガルと激しい競争・闘争を展開しながら、インド洋東部のヘゲモニーを握っていった。
  遅れてイングランドの東インド会社がやって来た。
  ブリテンの商人と東インド会社の艦隊、陸軍は、やがてポルトガル艦隊を駆逐し、ポルトガル人を従属的な同盟相手に組み込んだ。そして、ムガール帝国の衰滅やインド各地での騒乱につけ込んで、インド亜大陸からアラビア、東アフリカで支配地域を拡大していった。
  原住民たちの「豊かな」インド洋は、西欧列強のヘゲモニー争いの舞台となっていった。

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