アミスタッド 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
洋上の反乱
大西洋にまたがる利害紛争
大統領と奴隷制廃止論者
・・・欲の突っ張り合い
ジョン・アダムズ
法廷闘争の開始
アフリカ人の「物語」
言葉・・・
通訳係の獲得
奴隷貿易の歴史
密貿易
暴かれた奴隷貿易
合衆国内の権力闘争
ロジャーとクインシー
クインシーとセンベ
クインシーのチャレンジ
重い結末
映画が問いかけるもの
アメリカ独立革命と南北戦争

法廷闘争の開始

  タッパンとジョウドスンはクインシーの協力を取りつけることができなかった。しかも、初公判の日が迫っていた。ジョウドスンは、仕方なくロジャー・ボールドウィン弁護士を代理人に選定した。そして、拘置所のアフリカ人たちに面会を求めて、地方検事の弁論への反対証拠を集めようとした。
  だが、アフリカから連れてこられてて日の浅いセンベたちとコミュニケイションすることができなかった。言葉が通じない。ロジャーは、アフリカ言語学者を連れてきたが、役には立たなかった。
  いよいよ公判が始まった。

政治力学に翻弄される法廷

  ニューヘイヴン地区裁判所での審理は、陪審制による法廷となった。
  まず、検察官ハラバードによって罪状に関する論告がおこなわれた。ハラバードの言い分は、生き残ったアミスタードの船員2人の証言によるもので、彼らに都合のいいように脚色されていた。
  その要点をまとめると、センベたち44人のアフリカ人たちは、アミスタードに乗る以前にエスパーニャ領ですでに奴隷となっていた者たちで、別の植民地への輸送の途中で反乱を起こしたというものだった。それまで所有していたエスパーニャ人から売り渡されて、別のプランテイションに運ばれるはずだったというのだ。
  そして、ルイスとモンテスの弁護士は、2人が所持していた船の積み荷記録を証拠書類として提出した。そこには、アフリカ人たちが、奴隷という物財として「積み込まれた貨物」と記載されていた。
  これに対して、徒手空拳のボールドウィンは、センベ(やがてシンケと呼ばれる)たちにはエスパーニャ語が理解できないこと、そのうえ、西アフリカの部族の生活風習を残していることを、陪審員と判事に示して見せた。ということは、つまり、これまでエスパーニャ人による支配や統制管理を受けたことがないという事実を示す状況証拠だった。
  けれども、ボールドウィンは、判事の状況証拠以上の物的証拠(文書)はないのかという問いには、「この44人が物的証拠そのものです」と答えるしかなかった。


  「書類などの証拠を示せ」という判事の要求を受けて、ボールドウィンは、アミスタード船内の捜索と証拠保全の許可申請を出して、ジョウドスンとともに船の調査に出かけた。その結果、薄暗い船倉の壁の隙間にあったポルトゥガル商船船長との商品売買契約書を発見した。それには、テコーラの船荷記録が添えられていた。
  アミスタードの取引の相手は、大西洋全域に悪名が轟いている「テコーラ」だった。このポルトゥガル船は、ヨーロッパ諸国が公式には禁止している奴隷貿易をおこなっている船舶だった。大西洋の軍事的覇権を握るブリテン艦隊は、違法貿易(密貿易)を堂々とおこなっているテコーラを拿捕ないし撃破するために血眼になっていた。もちろん、アフリカ人の尊厳と自由のためというよりも、ブリテンの海洋権力を誇示し、密貿易を封じ込めるためだった。
  ブリテンの航海法は、ブリテンの港湾や船舶を利用しない(ゆえにブリテン政府による課税を免れる)大西洋貿易を禁止していた。
  ロジャー・ボールドウィンは、アミスタードとテコーラとの売買契約書(取引内訳書)を法廷に提出した。彼は、この証拠によって、アミスタードが違法と知りながらテコーラからアフリカ人を奴隷として購入して、カリブ海域のどこかに転売するつもりだたことを証明した。
  すでに奴隷になっていた者の売買は、それ自体違法ではなかった。違法な奴隷狩りで捕縛したアフリカ人を奴隷として売買することが、犯罪とされたのだ。   これによって、生き残った船員2人の主張の論拠は崩れ去った。判事と陪審員は、センベ=シンケたちの無罪と解放に傾いた。

  この法廷の動きに対して、大西洋をまたぐ政治力学と、いまだ国民的・国家的統合を成し遂げていない合衆国内部の政治力学が働いた。
  エスパーニャ王国から大統領、ヴァン・ビューレンに親書が届いた。「奴隷を保有する国家どうしとして、奴隷の解放を許してはなりません」という趣旨だった。だが、まだ少女のエスパーニャ女王、イサベル2世の言い分は、無視してもよかった。
  問題は、奴隷制度をめぐって北部諸州と南部諸州との敵対が深まっている連邦の政治力学だった。

  もし、法廷がアフリカ人の反乱を「奴隷による反乱」で有罪だとして死刑を決定すれば、北部の反感を招き、奴隷廃止論が勢いを増すだろう。逆に、アフリカ人を無罪として開放すれば、奴隷制死守を言い張る南部諸州は連邦から独立しようとして内戦に突入するだろう。そうなれば、大統領の再選どころではない。
  北部の奴隷廃止政策が力を得るのは、まだ数年先で、ヴァ・ビューレンにとっては、目先の選挙での再選こそが重要だった。彼は、南部諸州の地主層の支持を得て再選を果たそうとしていた。
  そうなれば、選択肢は明らかだった。とはいえ、裁判への露骨な政治介入は、それはそれで世論の反発を招く。というわけで、大統領府は、審理を地区裁判所=陪審制法廷から取り上げて、州裁判所の判事1人だけによる決定に置き換えた。そして、判事を更迭して、裁判官に若手のコグリンを任命した。
  地区裁判所の判決が出る前に大統領府が行政権限を行使して、州裁判所に管轄換えしてしまったのだ。下級審での決定も出ないうちに上級審に移管してしまったというわけだ。映画での脚色なのか、事実なのか?
  大統領府(行政権)による法廷クーデタだった。司法権は執行権力に従属するというレジームの実態をあからさまにした。

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