アミスタッド 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
洋上の反乱
大西洋にまたがる利害紛争
大統領と奴隷制廃止論者
・・・欲の突っ張り合い
ジョン・アダムズ
法廷闘争の開始
アフリカ人の「物語」
言葉・・・
通訳係の獲得
奴隷貿易の歴史
密貿易
暴かれた奴隷貿易
合衆国内の権力闘争
ロジャーとクインシー
クインシーとセンベ
クインシーのチャレンジ
重い結末
映画が問いかけるもの
アメリカ独立革命と南北戦争

アフリカ人の「物語」

  おさまらないのはロジャー・ボールドウィンだ。ようやく陪審員団と判事を説得できるかもしれない論証=反証の道筋を見出したのに、と。彼は荒れた。
  政治権力の障壁ににぶつかったジョウドスンは、ふたたびクインシー・アダムズを訪ねた。そして、審理する法廷が移され判事が挿げ替えられ、陪審員が排除されてしまったことを報告した。
  「合衆国憲法では、行政権と司法権とは分立しているはずなのに…」と訴えた。
  クインシーは、議事堂の中庭から移植したバラの鉢をいとおしそうに持ち上げて言った。
  「このバラと同じだよ。権力というものは、枝分かれはしているが、元(幹と根)は同じものなんだ」
  さすがに百戦錬磨の老獪な政治家である。権力の本質を知悉している。
  ジョウドスンはクインシーに仮定の質問を出した。
「あなたが、仮に私たちの法定代理人だとして、こういう状況でどんな闘い方をしますか?」  ジョウドスンもなかなかの策士である。弁護人就任は断られたが、助言者として協力を求めた。しかもクインシーは、困難で複雑に絡み合ったな問題ほど鼻を突っ込みたがる習癖がある。
「よし、私は君らの助言者の役割を引き受けよう。
  …そこでだ…、君らは、あのアフリカ人たちにはどのような物語(ストーリー)があると見ているのかね?」
「物語ですか? 彼らは西アフリカから海を超えて連れてこられて奴隷にされようとしたんです」とジョウドスンは答えた。
「それが彼らの物語だというのかね。そうかな。
  たとえば君の物語はどうなんだ。…解放奴隷から身を起こして立派な実業家になり、奴隷制廃止論者になった。だが、これは物語の外面にすぎない。
  奴隷から解放されても、大きな苦難があったはずだ。その苦難に君はどのように立ち向かい、どんな努力をしたのか、何に苦悩し、何を成し遂げようとしたのか。それが物語だよ」クインシーは指摘した。
  クインシーが指摘したのは、アフリカ人の来歴、アフリカでの生活、奴隷狩りに遭ってからの苦難や苦悩、何を目指して反乱を起こしたのか、今、何を求めているのか…ということなのだろう。
  法廷で、それゆえ裁判官や傍聴人、そして新聞記者たちに対して、アミスタードのアフリカ人たちの「人間としての尊厳」を認めさせるためには、彼らの人間としての存在、つまりは過去の生活や来歴、苦悩や苦痛、希望や意思などを説得力をもって提示しなければならないのだ。

言葉、すなわちコミュニケイション手段

  人を理解するためには、その人とコミュニケイションをしなければならない。語り合わねばならない。つまり、言葉を交わし合い、打ち解けあい、共通の理解に達しなければならない。だが、ロジャーとジョウドスンたちは、センベ=シンケたちが話す言葉を1つも理解できなかった。
  ロジャーはまたもや徒手空拳で挑戦を始めた。
  拘置所のセンベ=シンケを訪れて、敬意を表して向き合い、信頼を築き上げようとしていることを身振りで伝えた。センベは非常に賢く、深い洞察力を備えていたから、身振り手振りによる意思疎通はどうにか成功した。
  それで、ロジャーは拘置所の中庭の地面に棒切れで大雑把な地図を書いて、センベたちがどこから来たのかを尋ねた。
  フロリダ半島から北米を描き、「ここがアメリカだ。この大地だ」というように見振り手振りで伝え、「君らが来たところはどこだ」という身振りをした。センベは、といの意味を理解した。
  だが、彼は薄闇の奥に歩いていってしまった。ロジャーが途方に暮れていると、闇の奥から、 「俺たちは、ずっとずっと遠いところ、この辺から連れてこられたのだ」ということを告げた。大西洋の彼方から、という意味らしい。
  ロジャーは、アフリカ大陸の大西洋岸から来たらしいことを理解した。

アフリカ人と奴隷貿易

もとはヨーロッパに隷属する植民地だった「新大陸」アメリカ。植民地開拓のために、ヨーロッパ人たちはアメリカに過酷な条件のもとで働く労働力として多数の奴隷を送り込んで、支配・搾取してきた。だから、センベたちの言語を理解する地方出身のアフリカ系住民もいるに違いない。
  奴隷制度が廃止されているコネティカット州には、多数の解放奴隷がいて、彼らのなかにコミュニケイションの協力者を探そう、ということになった。

通訳係の獲得

  まずは、西アフリカ出身の黒人を見つけよう。ということで、先頃はまったく役に立たなかったアフリカ言語学者に、西アフリカでの数の数え方を習った。
  そして、ロジャーとジョウドスンは、ニューヘイヴン近辺の港湾市場を回りながら、西アフリカの言葉で「1、2、3、4…」と数えながら、アフリカ系住民たちに話しかけた。
  ところが、近隣社会に定着したアフリカ人たちは、訝しげな表情を見せて戸惑うだけだった。
  幸運は意外なところに転がっていた。
  たまたまニューヘイヴンに寄港したブリテン艦隊の水兵たちが集まっていた。その横を、ロジャーやジョウドスンが西アフリカの言葉で数を数えながら通り過ぎた。それを聞きつけた精悍な容貌のアフリカ人青年が、言葉をかけてきた。もとより、英語を使って。
  ロジャーとジョウドスンは、運好く、格好の通訳を獲得できた。
  アフリカ人青年は、ブリテン海軍の水兵だった。大西洋で奴隷密輸船に乗せられているところを、この船を追跡拿捕したブリテン艦隊によって救出され、解放されたのだという。そのまま艦隊で訓練を受けて、水兵になったのだ。
  本名はカイ・ニャグア。ブリテン海軍での名は、ジェイムズ・コウヴィだという。彼は、ロジャーとジョウドスンの依頼を快く受けて、センベたちとの通訳係になった。
  通訳係ジェイムズは、毎日のようにセンベ=シンケのもとに通って、話を聞き出した。知性豊かなセンベは、アフリカ人の仲間からリーダーと目されていた。豪胆さと冷静な判断力、洞察力は際立っていた。

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