アミスタッド 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
洋上の反乱
大西洋にまたがる利害紛争
大統領と奴隷制廃止論者
・・・欲の突っ張り合い
ジョン・アダムズ
法廷闘争の開始
アフリカ人の「物語」
言葉・・・
通訳係の獲得
奴隷貿易の歴史
密貿易
暴かれた奴隷貿易
合衆国内の権力闘争
ロジャーとクインシー
クインシーとセンベ
クインシーのチャレンジ
重い結末
映画が問いかけるもの
アメリカ独立革命と南北戦争

大西洋にまたがる利害紛争

  商船アミタードの44人のアフリカ人たちは、アメリカ海軍の艦艇によって拿捕されて、コネティカット州のニューヘイヴン(ロングアイランドの北側対岸の都市)に連行された。そこで、地区裁判所によって複雑な海事事件として審理されることになった。
  アフリカ人たちは、ふたたび手枷足枷に拘束されて、薄暗い拘置所に閉じ込められることになった。

大統領と奴隷制廃止論者たち

  おりしも、ワシントンや主要諸都市では、改選を控えた大統領、マーティン・ヴァン・ビューレンが再選キャンペインに奔走していた。都市から都市へ、地方から地方へと有力者や選挙民に媚を売って歩いていた。そこに、深刻な国際的な利害紛争をはらむ事件が降ってわいた。
  補佐官は、大統領に「アミスタード事件」発生を告げて、問題の重要性を訴えた。だが、目先のことにしか目がいかなくなったヴァン・ビューレンは、面倒くさがり、とりあえずの扱いを補佐官に丸投げした。
  本当に目端の利かない大統領である。そのために、その後、ヴァン・ビューレンは選挙キャンペインで追い詰められ四苦八苦することになる。

  北東部にはアメリカ合衆国の主要な諸都市が集まっている。製造業や貿易業の中心地でもある。当時としては、メディアが発達した地域である。「アミスタード事件」は、またたくまに多くのメディア=新聞に取り上げられて、政治問題化した。
  奴隷制廃止運動の先頭に立っていた2人の市民が、この事件を奴隷解放・奴隷制廃止に向けて世論や政治を動かすための重要な事件として取り組もうと決心した。
  その1人は、解放奴隷から身を起こして今やニューイングランドの海運業の大立者、富裕な企業家に成り上がった黒人、テオドア・ジョウドスンだった。もう1人は、ルイス・タッパン。彼も富裕な資本家で、ニューイングランドのビズネス界をリードする海運業や製造業、銀行業を所有していた。そして、2人は、奴隷廃止論を主張する急進的リベラル新聞「エマンシペイター(解放者)」の共同経営者だった。

世界的規模での欲の突っ張り合い

  さて、ニューヘイヴン地区裁判所(のたぶん大陪審ないし予審)が開廷した。奴隷制の廃止や奴隷解放の理想に燃える2人は、訴訟関係者として法廷に出頭した。
  だが、2人が目撃したのは、黒人を奴隷という商品=物財としか見なさない個人や集団が自己の利害を最大限に主張し合う争奪戦だった。
  判事は開廷を宣言して、この事件を担当する地方検事の論告を求めた。検察官ハラバードは、センベたちを公海での海賊(殺人・略奪・破壊)行為と反乱の容疑で刑事告訴した。ということは、この事件は犯罪=刑事犯をめぐる裁判ということになる。

  ところが、そこにエスパーニャ大使が現れて陳述を求めた。「アミスタード」はエスパーニャ王国籍の船舶であって、「積み荷」の奴隷はエスパーニャ籍商人の所有物で、しかも公海での海難事件で占有・管理権からの離脱が発生した以上、奴隷は物財としてすみやかにエスパーニャ王室に返還されるべきだ」と訴えた。
  ということは、これは商事海難事件(海商法)が主要な論点になる。財産の所有権の帰属をめぐる民事事件ということだ。
  だが、ほぼ同じ論点だが、アフリカ人奴隷の所有権を主張する別の当事者が現れた。アミスタードで運よく生き残った船乗り、ルイスとモンテスだった。彼らは、ほかのすべての乗組員が死亡してしまったため、船倉や積み荷の持ち分所有者として、奴隷たちの引き渡しを求めたのだ。
  意外な成り行きに驚いているタッパンとジョウドスンをさらに驚かせる当事者が現れた。何と、アミスタードをニューヘイヴンまで拿捕曳航した海軍士官2人だった。彼らの言い分は、海難事件にあったスクーナーを捕獲しアメリカの港湾まで保護曳航したのは、海軍の実績である。だから、2人は民事上の権利を訴求する民間人として、奴隷の引き渡しを要求する、というのだ。

  やれやれ、と嘆息したジョウドスンたちをさらに苛立たせたのは、遅ればせにやってきた合衆国国務省の長官だった。どうやら、彼はとことん事なかれ主義のヴァン・ビューレンに焚きつけられて(丸投げされて)、事件は合衆国とエスパーニャ王国との外交関係に関する問題なので、管轄権を地区裁判所から連邦国務省に引き渡せと主張した。

  裁判の傍聴人のなかに、1人の弁護士がいた。財産権紛争が専門の若者、ロジャー・シャーマン・ボールドウィンだった。開廷後、事件がどんどん奴隷の所有権の争奪をめぐる欲の突っ張り合い(民事訴訟)の色合いを強めていくのを、興味深く見守っていた。
  で、「冒頭弁論?」が終わり、法廷傍聴席を立ち去るタッパンとジョウドスンに法定代理人として自分を売り込んだ。もちろん、財産法専門の弁護士としてだ。
  だが、2人は、とりあえずコネティカット州検事の刑事告訴とどう闘うかに思念をめぐらせていた。だから、今必要としているのは刑事弁護士で、民事専門家ではないと返答した。
  セルフマーケティングに失敗したロジャーだったが、2人が東部を代表する富裕な企業家と知って、ここで法曹界での自分の株を引っ張り上げるためのチャンスだと執拗に食い下がる決心をした。

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