アミスタッド 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
洋上の反乱
大西洋にまたがる利害紛争
大統領と奴隷制廃止論者
・・・欲の突っ張り合い
ジョン・アダムズ
法廷闘争の開始
アフリカ人の「物語」
言葉・・・
通訳係の獲得
奴隷貿易の歴史
密貿易
暴かれた奴隷貿易
合衆国内の権力闘争
ロジャーとクインシー
クインシーとセンベ
クインシーのチャレンジ
重い結末
映画が問いかけるもの
アメリカ独立革命と南北戦争

暴かれた奴隷貿易

  ジェイムズ・コウヴィがセンベから聞き取った事実経過は、法廷で陳述された。
  法廷に参集した人びとは、あまりの現実の重さに深い沈黙に陥った。だが、反対尋問に立った検事、ハラバードは苛立ったように、この「物語」への反撃を開始した。というのは、先頃、冒頭弁論(検察側論告)でセンベたちアフリカ人の反乱の非道を強く非難して、なかなかの出だしを飾ったばかりだったのに、奴隷貿易の被害者としてのアフリカ人の経験は、その成果を吹き飛ばしかねない重みがあったからだ。
  ハラバードは、センベが明らかにした物語を捏造した冒険譚だと決めつけて論難した。
  そこで、青年裁判官は、大西洋での奴隷密貿易の実態に詳しいブリテン艦隊の艦長を召喚した。艦長は、センベが語った物語には大きな信憑性があると確言した。
  彼が率いる艦隊は、ブリテンの航海法と奴隷貿易禁止令にしたがって、アフリカ西岸からカリブ海にいたる大西洋航路帯で、密貿易船舶の追跡と撃破、拿捕を任務としていた。とりわけ問題になっているのが、ポルトゥガル船舶による奴隷の密貿易だった。
  その密貿易の拠点は、ポルトゥガルのロンボコ城塞(商館)であるという確かな報告(捕縛した密貿易者の供述・証言によって明らかになった事実)が寄せられているという。だが、ブリテン艦隊による捜索ではまだ発見されていない。
  ハラバードは、艦長に反論した。ことに、テコーラの船荷記録には、西アフリカから奴隷としてアフリカ人を乗せた記録がないことを指摘した。だが、艦長は反論した。
「彼らは『奴隷』あるいは『アフリカ人』とは記載しません。奴隷たちは、積み荷の1つなのです。ほら、積み荷の個数と総重量が記録してあるでしょう。それが、センベたちアフリカ人なのです」
  これに関連して、ジェイムズはセンベから聞き取った衝撃的な事実を明らかにした。
  大西洋の航海が半ばに達した頃、テコーラの船長はアフリカで買い入れた「奴隷」のうち50人を鎖に数珠つなぎにし、バラスト用の砕石が入った網に結びつけて、海に放り込んで殺したというのだ。
  ハラバードはただちに反論した。 「そんなバカな。たわごとだ。せっかく買い入れた商品の半数以上を海に投げ捨てるなんて、そんな馬鹿げた好意を奴隷商人がするはずがない!」
  艦長は、ハラバードの論拠を打ち砕いた。
「いや、奴隷の多数あるいは全員を海に投げ捨てる行為は、しばしばおこなわれています。センベのケイスでは、途中でアフリカ人たちに与える食糧がそのままでは不足することが判明したからです。
  それ以外にも、奴隷貿易船がわれわれの追跡を受けたり、臨検(海上での当局による乗船査察)を受ける恐れが出てくると、証拠隠滅のために奴隷を海に沈めてしまうのです」


  だが、ハラバードは必死に食い下がる。
「そんなことをすれば、奴隷売買はまったく儲からないではないか」
「いいえ、それでも、とてつもなく利益が出る商売なのです」
「しかし、船荷記録にはそんな記録がない」
「いいえ、あります。この品目の船荷は途中で数が半分に減り、総重量も半分以下に激減しているでしょう。これこそ、半数以上の奴隷を海に投げ入れて沈めたという、残酷な事実の証明なのです」艦長は、ハラバードの論陣を完全に打ち崩した。
  判決の前日、コグリンは教会の礼拝堂を訪れた。彼は、アメリカの法曹界での出世のために敬虔なプロテスタントになった。だが、彼の祖父はカトリックだった。だが、アメリカの権力構造の階段では、よほどの富裕者や権力者でないと、カトリックの家系であることは地位の上昇の妨げになるのだ。
  今回の裁判でも、今後の出世のためには、ヴァン・ビューレンの大統領府に有利な、つまりアフリカ人を有罪にせよ、という圧力を受けていた。
  だが、法廷でロジャー・ボールドウィンたちが明らかにした事実は衝撃的で、大統領の思惑を拒絶するほどのものだった。コグリンは、自分の今後の地位を危うくするかもしれない判決を出す覚悟を固めるために、「神の館」にやって来たのだった。
  翌日、コグリンは州法廷で判断を示した。
  結論を述べる前に、彼は、エスパーニャ王権やアメリカ海軍士官の申し立てがそれ自体としては、すこぶる真っ当なことを認めた。だが、それらの主張の正当性は、センベたちアフリカ人たちがすでにカリブ海のエスパーニャ植民地で奴隷となっていたという事実が成立すれば、という条件が前提となっていた。ところが、それを証明したとするアミスタードの船員、ルイスとモンテスの証言が虚偽であることは明らかだった。
  ということで、コグリンは「アフリカ人の無実」「反乱の正当性(正当防衛)」を認め、彼らの解放を求めた。そして、虚偽の証言と奴隷貿易への加担の罪により、ルイスとモンテスを拘禁する、と判定した。

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