原題は Amistad 、1997年作品。
アミスタッドは物語の発端となった船舶名の英語読みで、もともとはエスパーニャ語の「ラ・アミスタード La Amistad
」で、意味は「友愛」「友情」。
この船は、スクーナーと呼ばれる快速帆船で、2本のメインマストに三角帆が張られた小型の船舶だった。それは北アメリカで建造され、当時エスパーニャ植民地だったクーバ島(キューバ)在住のエスパーニャ人商人の所有となり、北アフリカからカリブ海に運ばれてきた奴隷を北アメリカ各地に売りさばく仕事に利用されていた。以下では船名はアミスタードと表記する。
映画作品で脚本のもとになったのは、歴史学者ハウワード・ジョウンズの著書『アミスタッドでの反乱:奴隷の蜂起とアメリカでの奴隷廃止運動、法律、外交におよぼしたその衝撃をめぐる長い英雄譚』1987年。原書: Howard Jones, Mutiny on the Amistad: The Saga of a Slave Revolt
and Its Impact on American Abolition, Law, and Diplomacy, 1987
ここでは、映像物語の展開に加えて、この物語が示唆した背景文脈についても考察する。
19世紀の中頃に実際に起きた事件をもとにした物語。
19世紀まで、アフリカ人奴隷を南北アメリカ大陸に送る貿易は、大きな利益を生む商売だった。とはいえ、その頃には公式上、ヨーロッパの多くの諸国家では、宗教的・人道的――健康な労働力人口の維持という政治的・経済的根拠のある――理由で禁止されていた。にもかかわらず、ぼろ儲けできそうな商売は密貿易として続けられていた。
というのも、南北アメリカ大陸の大半では奴隷労働と奴隷制度が厳然と存在し、大きな経済的ニーズがあったからだ。しかし、奴隷狩りで自由や家族を奪われ、植民地に送られたアフリカ人たちにとっては、とんでもない悲劇だった。彼らが自由と尊厳を求めて、船上で起こした反乱から始まった事件の顚末を描いたのが、この作品。
反乱奴隷たちによって奪われたスクーナーは漂流中に合衆国海軍艦船によって拿捕され、黒人たちは北アメリカに連行され裁判を受けることになった。
おりしも合衆国では、自前の工業育成と世界貿易をめざすアメリカ北部諸州と、奴隷労働にもとづく綿花栽培によってヨーロッパへの原料供給体制を維持しようとする南部諸州とが、しだいに利害の敵対を深めているときだった。経済的・政治的には「南北戦争」はこのとき始まっていた。
奴隷労働を禁止しようとする勢力と奴隷労働を維持しようとする勢力とのあいだの深刻な利害闘争、イデオロギー闘争のなかで、それぞれの勢力は、この裁判に自分たちの利害やイデオロギーを反映させようとした。
そこに、大西洋貿易からエスパーニャ船の奴隷密貿易を排除して、ヘゲモニーを握ろうとするブリテン王国の艦隊と、もっぱら経済的理由から奴隷密貿易を黙認しようとするエスパーニャ王権との対抗が絡んでいくことになった。
奴隷狩りで自由と家族を奪われたアフリカ人たちの運命は、合衆国内部の権力闘争や国際的な利害対抗のなかで翻弄されていく。