テリーたち一味はそんなことはつゆ知らず、ロイズの地下貸金庫に眠っている莫大な金額の財貨を手に入れようと、懸命に地下を掘り続けた。だが、テリーはマルティーヌの態度や行動に不審を抱いた。こんな旨い話を持ち込んできたこと、そしてこのヤマの情報の出どころを教えてくれないことなどが、疑念の根拠だった。
そこで、マルティーヌが息抜きのために近くのパブに出かけたあとを尾行して監視した。すると、彼女はカウンターで気障な男と話をした。テリーはマルティーヌの反応を見るためにカウンターに近寄って声をかけた。
男はそつなく姿を消した。テリ−が「知り合いか」と尋ねると、「あの男が口説こうとして声をかけてきたのよ」とその場をごまかした。が、目に動揺が現れていた。
金庫破りの計画を進めているこの場所に現れたということは、あの男はこのヤマの情報源につながる人物に違いない。テリーはこう判断した。自分たち下層民衆とは明らかに毛色の違う匂いがする。
テリーはこのあと、マルティーヌの動向を監視するようになった。
■地下の空洞■
さて、ガンバスは掘削を続けていた。テリーは掘り出した土を運ぶ作業をしていた。ところが、トンネル掘りのなかほどを過ぎたあたりで、いきなりテリーは足元の土を踏み抜いて落下してしまった。下には何か空洞があったようだ。
仲間たちは驚いてテリーの救出に駆けつけたが、テリーは無事だった。そして、「地下道を発見した」と叫んでいた。
テリーが落ちたところは、煉瓦で周囲の壁を固めた地下道のような空間だった。ところが、そのなかにはいくつもの人骨(骸骨)が転がっていた。
ガイ少佐が降りてきて調べて結論を出した。
「たぶんこれは、16世紀にロンドンをペストが襲ったときの死者を葬った地下墓地だろう。大丈夫、いまではもうペスト菌は死滅していて安全だ」
古いカタコンベを病死者埋葬の地下墓地にしたらしい。この空洞は、ロイズ銀行の地下室の方に伸びていた。
この地下道の発見のおかげで、もうこれ以上の苦労することなく、銀行の真下までの通路が手に入った。
ガンバスは方角と距離を測定して、地下金庫室の中央部の位置を探り出した。
いよいよコンクリート壁の破砕となった。
■無線通信傍受■
順調に進むかに見えたトンネル掘りと地下金庫侵入だったが、手に汗握る緊迫した場面がちゃんと用意されている。ブリテン人好みのアイロニーを込めたやり方で観客をハラハラさせる緊迫の見せ場が展開する。
テリーたちと向かいのビルの屋上の監視役エディとのあいだの無線通信が傍受されてしまったのだ。
エリック・アディというアマチュア無線(ハム)の愛好者が、ある周波帯にテューニングしたところ、おそらくはロンドン市内でおこなわれていると思しき不審な無線通信による会話を傍受したのだ。
無線愛好家はしばらくこの怪しげな会話を聞き続けていた。
その会話から推理するに、どこかの銀行の地下金庫を狙っているギャングがいるらしい。そして彼らは、銀行を屋上から監視する見張り役を置いて、その男と無線で頻繁に連絡を取り合っているらしい。
「善良な市民」である無線愛好家は、この情報を地元の警察署に連絡した。
まもなく警察署の捜査官ロイ・ギヴン警部が数名の部下を引き連れて、エリックの住居に乗り込んできた。