ヴォーゲルのファミリーは、テリーを追い詰めている間にも、ガンバスとガイの居所を突き止めて襲撃し、惨殺してしまった。
この2人はいち早くテリーと別れて海外逃亡を企てていたから、テリーたちにはすぐにこの事件が伝わることもなかった。とはいえ、いずれメディアの報道で知らされることになるだろう。
3つの巨大な権力――MI5、犯罪ファミリー、腐敗警官集団――から追われることになったテリーは、生き残りを賭けたトラップを考え出した。
まずはMIに対する作戦。
テリーはティムに「写真を渡したら、その後、テリー一味を捕縛しないことを、王室と政府を代表して約束する高位の人物を仲介に立てること」を申し入れた。そして、翌日の午前11時にパディントン駅で、その人物に写真を渡す約束をした。
次にファミリーと腐敗警官組織に対する作戦。
この連中には、交渉や約束は通じないだろう。エディと引き換えに帳簿の引き渡しの取引自体は無事に済んでも、いずれテリーたちは「生きていては困る犯罪の証人」となるから、抹殺されるだろう。
とすれば、ひとまずはエディを奪還するために帳簿を引き渡す。だが、その直後にヴォーゲルや腐敗警官の頭目を「まともな警官」に逮捕させなければならない。そうすれば、買収された警官たちはただちに摘発され捕縛されることになる。そうなれば、テリーたちの身の安全は確保できるはずだ。
テリーは裏帳簿のなかから、1枚のシートを引き裂いて抜き出した。これを、買収されていない捜査官に渡せば、ヤード上層と内部監察がただちに動き出し、腐敗警官の一斉摘発に乗り出すだろう、という読みだった。
だが、犯罪組織に買収されていない警官は誰なのか。
土曜日の夜から銀行襲撃の情報を手に入れてテリー一味を追いかけているギヴン警部なら大丈夫だ、とテリーは判断した。今でも執拗に捜査を続けている。ということは、ファミリーの裏帳簿には関係していないからだろう。関係者ならば、公式上は事件を迷宮入りさせてから、ファミリーと結託して、テリー一味を狩り立てようとするだろう。
そこで、ケヴィンに裏帳簿の1シートを持って、ギヴン所属の警察署に行かせた。そこで、ギヴンに面会してシートを渡し、ファミリーによる警察組織の買収という事態を察知させて、警察の上層部と内部監察を動かすように仕向けるためだ。
裏帳簿のシートを見たギヴンはスコットランドヤードの上層部に連絡して、彼の指揮で内部監察局を動かすことになった。
ケヴィンは「翌日の午前11時にパディントン駅で取引が行われる」と告げていた。
ギヴンは、そこにやって来るルウとパイクたちを――証拠の裏帳簿もろとも――確保・捕縛する手はずを準備した。
テリーはヴォーゲルに電話した。翌日の午前11時に地下鉄パディントン駅のプラットフォームで、エディと交換に帳簿を引き渡すと伝えた。