ロイ・ギヴン警部はエリックに傍受を続けさせた。そして、交信会話の内容から、屋上の見張りは、目標の銀行に接近する者を監視しているらしい。だとすれば、ロンドン中心街の銀行支店に片端から警察を派遣して、これに対する反応を調べれば、ギャングがどこの銀行を狙っているのか判別できると考えた。
だが、警察官が巡回した銀行については反応がなかった。
しかし、多くの警官隊が巡回に動くにつれて、行動が分散化し同時に複数の銀行に出向くようになったために、無線ではどこの銀行か識別ができなくなった。
だが、救急車の接近に反応する無線交信があったことから、ベイカー街のロイズ銀行の支店である可能性が出てきた。そこで念のためにその場所に銀行支店の店長を呼び出してみたが、地下金庫はきわめて厳重なロックシステムになっているので、月曜日の朝まで地下金庫の扉は絶対に開けようがないことが判明した。
ロイ・ギヴンはもう一度、ベイカー街のいくつかの銀行支店にヤマを張って警官を巡回させてみた。
ところが、ロイズの支店を巡回する順番になる直前、屋上の見張り役エディが小型無線機を地上に落してしまったことから、一味の交信が途絶えてしまったために、一味の反応を確認することができなかった。
エディの不手際が原因で、一味は、警察によって襲撃目標を察知されることを回避できたわけだ。じつに皮肉な巡り合わせである。
無線通信が傍受され警察の捜査の手が迫っていることを知ってか知らずか、テリーたちは土曜日の真夜中にロイズのベイカー街支店の地下金庫室への突入経路を切り開いた。
とはいえ、分厚い鉄筋入りコンクリートを焼き切るために強力なトーチバーナーを使用したので、金庫室には有害な煙が立ち込めていた。
そこで朝まで休憩をとって、煙が収まってから、貸金庫の中身を強奪することにした。
ガンバズやガイ、ケヴィン、デイヴは仮眠をとった。
ところが、マルティーヌは独りこっそりと金庫室に入り込んで、貸金庫ボックス118を調べ始めた。MI5のエイジェント、ティム・エヴァレットは彼女に、貸金庫ボックス118に入っている資料を盗み出せと指示を出していたからだ。そのため、このときマルティーヌはボックスのありかを探そうとしていたのだ。
そのマルティーヌの行動をテリーは監視していた。
彼女が貸金庫室に入って調べ回っているところに入り込んでいった。不審な行動を牽制する意味があった。テリーの出現に慌てたマルティーヌは適当な言い訳で取り繕って金庫室を出てトンネルに戻った。
翌朝、テリーたちは金庫室に入り込んで片端から貸金庫ボックスの扉を破壊し、中身を強奪していった。彼らは指輪やブレスレット、ネックレスなどの宝石・宝飾品や金貨、高額紙幣の束などを手当たりしだいに袋に詰め込んだ。
マルティーヌは、昨夜目をつけておいた118のボックスに取りついた。そして、仲間に破壊を頼んだ。テリーが壊し役を買って出た。そして、マルティーヌの横で箱の中身を確認して、王女のスキャンダル写真を見つけた。
「あの男が奪えと命じたのは、この写真だったんだな」とテリーは彼女を問い詰めた。
マルティーヌは、このヤマの情報源があの男だと認めた。だが、「中身が何かは教えてくれなかったわ。こんな写真だなんて…」と返答した。
「ということは、俺たちははめられたんだ。こんな危険な写真を見た以上、俺たちをとらえる罠が張られているはずだ。
とすれば、この写真は危険だが、いざというときの切り札(取引材料)として預かっておこう」とテリーは判断した。