さて、貸金庫強奪ののち、映像はMI5、警察、ヴォーゲル、マイケルXらの企みと罠が複雑に錯綜している構図を描き出す。絡み合う罠。騙し合いと出し抜きあいが繰り広げられる。じつに見事なプロットを描き出している。
■テリーの逃走作戦■
屋上の監視役エディーはギヴン警部の捜査網が迫っていることを察知した。急いで、テリーに事態が差し迫っていることを伝えた。
まだ手つかずの貸金庫は半分以上残っているけれども、テリーたちは強奪をすぐに終結させて逃亡する準備に取りかかった。それでも、すでに巨額の獲物を手に入れることができた。
このあと計画では、2日前から貸店舗の傍らに停めておいたヴァンに仲間と強奪した財貨を積みん込んで逃げるはずになっていた。数分後には灰色のヴァンがベイカー街を走り去った。
ところがだが、すぐにヴァンのあとをMI5のエイジェントたちを乗せた車両が追いかけた。まもなく、ヴァンは彼らに取り押さえられた。エイジェントたちは、ヴァンのドアを開けさせた。ところが、乗っていたのはテリー一味ではなかった。
トラップにはカウンタートラップが用意されていたのだ。テリーの手配だった。
というのは、マルティーヌの不審な動きを警戒していたテリーは、王女のスキャンダル写真を見て、国家の秘密情報部が背後で糸を引いているに違いないと判断した。当初の計画の逃走経路にはMI5が罠を張り巡らせていることを確信した。
そこで、かねてから用意してあった、予備の逃走経路に切り替えることにしたのだ。
そして、金で雇った男に灰色のヴァンを運転させてダミーに仕立て上げてMI5を引きつけさせている間に、別のヴァンで逃走して、隠れ家の倉庫に車ごと隠れた。
この倉庫でテリーは計画どおりに仲間に分け前を分配した。
そのときテリーは、じつはこの銀行強奪が王室スキャンダルの暴露を未然に封じるためMI5が仕組んだもので、罠が張りめぐらされているはずだということを仲間全員に告げた。その罠を逃れるために、実際の逃走経路をはじめの計画から切り替えたのだと説明した。そして、仲間に一刻も早く行方をくらませ、と指示した。
ガンバスはキュプロスに帰ると言って去った。ガイも逃げ去った。デイヴは母親のもとに戻ってから、海外に逃げるという計画を告げて去った。
テリーたちが物語の主人公だから当然のことだが、国家装置MI5の隠微な陰謀に比べれば、むしろ強盗団は可愛げのある存在に見える。思わず感情移入、同情してしまうほどだ。