小説家を見つけたら 目次
原題と原作について
見どころ
あらすじ
ジャマールの日常
ヘッドハンティング
隠棲する偏屈老人
侵   入
謝 罪 文
スカウトの申し出
超名門校、メイラー・キャロウ
ジャマールとフォレスター
名門高校での生活
フォレスターとクローフォード
文章技術の訓練
ふたたびの情熱
ティームのライヴァル
クレアの接近
偏見と嫉視
窮   地
孤独な戦いと友情
外したフリースロー
「信義を全うする時季」
最後の旅立ち

超名門校、メイラー・キャロウ

  ジャマールはメイラー・キャロウ高校の見学に出かけた。ゲイト近くに立って見回すと、いままで通っていた高校とは全然別格のものだとわかった。誇らしげに翻る校旗、スーツやジャケットにネクタイというフォーマルな生徒たちの服装、彼らの向学心や使命感に輝く瞳。
  玄関には涼やかな面立ちの利発そうな少女――WASP系――がいて、声をかけてきた。
「あなたはジャマールね。私はクレア・スペンス。あなたの案内係よ」
  その少女の案内でざっと構内を見てから、各クラス(授業)を回ることになった。ちょうど10月(新年度の始まり)で、どのクラスもオリエンテイションがおこなわれていた。手始めは、クローフォード教授の文学・修辞法クラスだった。

  アメリカの一流進学高校は、大学進学予備校と大学の教養課程を合わせたような学校だ。通常の高校の学科の内容は、生徒個人が独習でマスターすることが当然の前提となっている。クラスでは、プロフェッサーと呼ばれる大学教授並みのレヴェルの教員がレクチャーしながら、生徒に質問し回答を求めるだけでなく、課題を提起してレポートや研究発表を求める。ゼミナールに近い運営だ。
  都市部の私立の名門高校の教員は、並みの大学教授職よりも面倒なものらしい。誇りをもって教育にあたる教師も多いが、有能なジャーナリストや文筆家、あるいは一流大学の教授になりそこねたコンプレクスを抱いている者もいる。なかには少数だが、満たされない自尊心の「はけ口」を授業にぶつける教師もいる。そんな人びとは、つまりは、自己の権威を押し付け、高校生を相手に知識や教養を衒うことになりがちだ。


  さて、ジャマールは転校を決めた。
  そして、クローフォード教授の授業に出席した。教授は、今期のテーマを説明した。研究対象となるのは、ウィリアム・フォレスターの小説『アヴァロンを捜し求めて』。
  フォレスターはスコットランド生まれで、少年時代に一家でアメリカに移住した。22歳のときはじめて発表したこの作品で、ピューリツァー賞を獲得。小説作家として華々しいデビューを飾ったにもかかわらず、その直後に文壇から姿を消してしまい、その後、小説を発表していない。
  おおよそこんな経歴をフォレスターは生徒に説明した。で、研究課題は、この小説を読んで、その内容や筆致から、フォレスターがなぜこの作品ののち小説を発表していないのかという理由を考察し、レポートを提出するということだ。

ジャマールとフォレスター

  ジャマールはフォレスターの小説のペイパーバックのペイジをぱらぱらとめくってみた。カバーの見返しに著者の簡単な紹介と顔写真が掲載されていた。それを見たジャマールは、クレアの誘いを断って、図書館に急いだ。彼は閲覧室のデスクトップ・コンピュータでウィリアム・フォレスターを検索し始めた。そこに示されたデイタベイスにあった若い頃の顔つきや体つき、生年月日などの情報から推し量って、この天才的文章家はあの老人に違いないと判断した。

  ジャマールは高校からの帰宅途中にまたもや老人を訪ね、老人に文章作成の指導・助言をしてほしいと頼み込んだ。そして、卓上にウィリアム・フォレスターのペイパーバックを置いて、この小説が授業の課題となったと告げた。
  老人は、自分がウィリアム・フォレスターだと認めた。
  そのうえで、「私がここにいることを誰にも話さないという条件で、文章作成の指導・助言を引き受けよう」と答えた。そして、その部屋で書いた文章は外にもち出さないようにと求めた。
  フォレスターにしても、ジャマールのすばらしい才能に接して、指導・助言しながら、隠棲してから久しく他人との交流を断ってきた状況を少しばかり変えて、この少年からインスピレイション=刺激を受けてみようと思ったのかもしれない。

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