さて、ジャマールはフォレスターから文章作成の指導を受けることになった。フォレスターは、ジャマールに机上のタイプライターを1台貸し与えた。そして、隣の部屋からもう1台をもって来て、ジャマールと向かい合わせの机に置いた。マン・トゥー・マンの指導だ。
フォレスターは、まずはじめに考えずに感じるままにキーを叩けと言った。だが、ジャマールはすぐに文章を思い浮かべることはできなかった。プロフェショナルとアマチュアの差だ。
戸惑うジャマールに、フォレスターはお手本をやってみせた。
「最初の回は、ハートでキーボードを打つんだ。2度目(推敲)は、頭で考えながら再構成するんだ」
と言って、またたくまに1枚(A4)の文章を打ち上げた。それをジャマールに見せた。
文章を読んだジャマールは、「ああ、何てすごいんだ( Aha, Jesus Christ ! )」と嘆息した。一瞬に思いついて書き上げた文章とは思えないほど、すばらしかった。というよりも、自分にはとてもおよびそうもない境地だと委縮するほどに。
ジャマールのそんな態度に、フォレスターは、文章の構想をスパークさせる触媒が必要なのだと気がついた。インスピレイションによって文章を書き始めるきっかけをつかめないジャマール。記憶とか論理が、文章への衝動よりも強い人たちにありがちな傾向だ。
フォレスターは、過去に執筆した原稿のなかから、「信義を全うする時季( The Season of Faith Perfection )」という作品をジャマールに手渡した。模倣してはならないが、読んで浮かんだ発想の赴くままに文章を書き上げろ、というのだ。
こうして、ジャマールが書き上げた文章を読んだフォレスターは、「すばらしい( remarkable ! )とつぶやいた。
卓越した指導者=助言者を得たジャマールは、短期間に飛躍的な進歩を遂げた。フォレスターとしてみれば、対等に会話できる年若い友人=仲間を得た想いだった。